浄土真宗とは?焼香の回数などの葬儀マナーと注意点も

お葬式のマナー・基礎知識
浄土真宗とは?焼香の回数などの葬儀マナーと注意点も
日本では人が亡くなると、仏教式の葬儀をおこなうのが一般的です。数ある伝統仏教のなかでも、浄土真宗は日本で信者数最多といわれる宗派。教義の性質から、焼香や葬儀の流れでは他宗派にはない点がみられます。浄土真宗の教義や葬儀の流れ、葬儀マナーを紹介します。

浄土真宗とは

浄土真宗は、親鸞聖人(しんらんしょうにん)を宗祖とする仏教の一派です。その始まりは鎌倉時代に遡り、室町時代に広く一般に普及したといわれます。浄土真宗の葬儀について考える前に、浄土真宗とはどのような宗派なのかを確認していきましょう。

浄土真宗の宗派と歴史

浄土真宗の教えと立場を鮮明にするための組織として「真宗教団連合」があります。この組織には、「真宗十派」といわれる10派が加盟。しかし、実際のところ主流となっているのは「本願寺派(お西さん)」と「大谷派(お東さん)」の2派です。

本願寺派と大谷派は、もともとひとつの宗派でした。ところが戦国時代、一向宗(浄土真宗)と織田信長とが争った「石山戦争」の頃より対立が激化。江戸時代には本願寺派が「西本願寺」、大谷派が「東本願寺」を本山として分裂します。

しかし明治に入ると、対立ムードは緩和。現在ではさまざまな場面で、両者が協働する様子もみられます。

浄土真宗の信者数は日本最多

文化庁が発表した令和5年版「宗教年鑑」によると、浄土真宗本願寺派の信者数は約775万人。真宗大谷派の信者数は約728万人です。

両者を合わせただけでも浄土真宗の信者数は約1,503万人。全国の仏教系の信者数は約7,076万人ですから、約2割近くが浄土真宗の信者ということになります。この数字は、伝統仏教系では最多です。
また、1997年に「NHK文化放送研究所」が出版した「現代の県民気質―全国県民意識調査」によると、浄土真宗のシェアはほぼ全国的であることがわかります。関東、東北、四国、中国地方の一部を除いて、もっとも多く県民の信仰を集めているのは浄土宗や浄土真宗などの「浄土系」です。

浄土真宗の教え

浄土真宗は、「絶対他力」の教えを掲げているのが特徴です。絶対他力とは、阿弥陀如来(あみだにょらい)に任せることで救いを得る「他力本願」の教えを基にしています。

親鸞聖人が説いた絶対他力とは、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)という念仏を唱えなくとも、信仰する心があれば誰でも救われる」という教えです。

また、浄土真宗の教えでは、死後の世界(霊という概念)がありません。仏教では、人は亡くなると仏になります。宗派によって仏になるまでの時間や方法が違います。浄土真宗では亡くなった人はすぐに仏になります。この考え方を、「往生即身仏(おうじょうそくしんぶつ)」、または、「臨終即往生(りんじゅうそくおうじょう)」といいます。

浄土真宗の葬儀の流れ

浄土真宗は「死後すぐに往生できる」という独自の教えを持ちます。そのため、葬儀の流れが他の宗派と異なる部分も少なくはありません。そこで、浄土真宗の葬儀の流れを紹介します。

浄土真宗の葬儀全体の流れ

浄土真宗における葬儀勤行の流れは、次のとおりです。

①枕経(臨終勤行):ご本尊(阿弥陀仏)にお礼するお勤め
②通夜勤行(帰経式)+御文章(ごぶんしょう):故人を偲び、阿弥陀仏から受ける恩に感謝し、それに報いるお勤め
③出棺勤行+葬儀勤行:葬儀前のお勤めと、葬場にて仏徳讃嘆するお勤め
④火屋勤行:火葬場でのお勤め
⑤納骨勤行:お骨上げ
⑥還骨勤行:火葬場から遺骨を持ち帰った後の勤行

特に③の出棺勤行と葬儀勤行の流れは、時代と環境によって変化してきています。
遺体を自宅に安置していた時代は、自宅から「出棺」→「葬儀」の流れが一般的でした。しかし近年は葬儀場に遺体を安置しているケースが多く、その場合は、「葬儀」→火葬場への「出棺」になります。
このように現在では、「葬儀」→「出棺」が主流です。

浄土真宗本願寺派の「葬儀・告別式」の流れ

続いて、浄土真宗の葬儀・告別式について、本願寺派の流れをみてみましょう。
①開式
②三奉請(さんぶしょう):最初に唱えられる経文。葬儀の最初に唱える
③表白(ひょうびゃく):御仏の徳を賛嘆するもの。法要の趣旨を述べる
④正信偈(しょうしんげ)・短念仏:読経
⑤焼香
⑥和讃(わさん):御仏の教えを賛美する歌
⑦回向(えこう):功徳をすべての人に回し向けるための念仏。葬儀の最後に唱える
⑧閉式
⑨出棺

ただし、葬儀の流れは宗派や地域によって異なります。厳密な流れが気になる際は、菩提寺(ぼだいじ)に事前に尋ねておくのがベターです。

浄土真宗の焼香の回数と作法

焼香に抹香(まっこう)が使われていた場合、浄土真宗本願寺派なら1度、真宗大谷派なら2度つまんでそのまま香炉に落とします。また、線香の場合は灰の上に立てず、寝かせてお供えしてください。

線香を寝かせてもすぐに火が消えないよう、浄土真宗では藁灰(わらばい)が使用されます。これは藁を燃やして作られた灰。お線香を寝かせて置いても、最後まできれいに燃えるのが特徴です。
焼香のマナーについては、基本的にどの宗派も同じです。焼香の仕方の詳細を知りたい方は、こちらの記事にも目を通してみてはいかがでしょうか。
また、焼香の作法とともに念珠のマナーについて知りたい方はこちらの記事が参考になります。

浄土真宗の葬儀マナー(香典袋、お悔やみ)

浄土真宗の葬儀マナーとして、焼香の回数以外にも気を付ける事柄がいくつかあります。

香典の表書きに注意

浄土真宗では、香典の表書きに「ご霊前」を使いません。「御仏前」または「御香典」にします。これは、「往生即身仏:おうじょうそくしんぶつ」の教えに基づきます。亡くなった人はすぐに仏となるため、浄土真宗では「霊」の文字は不適切なのです。

お悔やみの言葉に注意

一般的なお悔やみの言葉は「ご冥福をお祈りいたします」「安らかにお眠りください」などでしょう。しかし、浄土真宗ではこうしたお悔やみの言葉は使われません。

そもそも「冥福を祈る」とは、「死後の多幸を願う」「死後の世界に無事に行けますように」という意味です。また、「安らかに眠る」というのも、死後不安なく過ごせるようにという願いが込められています。

こうした言葉は、「死後の世界(霊)」という概念がない浄土真宗にはふさわしくありません。浄土真宗の葬儀でお悔やみの言葉を述べるときは、「心よりお悔やみ申し上げます」など述べるのが適切です。

葬儀の前に知っておきたい浄土真宗の慣習

阿弥陀如来を絶対的な存在とする浄土真宗では、浄土真宗ならではのしきたりがあります。なかでも大きな違いがある、「葬儀は勤行」「法名」について紹介します。

浄土真宗の葬儀は勤行

浄土真宗は「人は亡くなるとすぐに極楽浄土へ行く」という教え。そのため、葬儀は故人のためのものではなく、阿弥陀如来に捧げる「勤行」です。

勤行とは、仏道に励むためにお経を読んだり拝んだりすること。僧侶(や参列者)が故人に成り代わっておこないます。

法名

浄土真宗では、死後の名前を戒名ではなく「法名(ほうみょう)」とよびます。「法」とは、すべての人を救ってくださる阿弥陀如来のはたらきを指します。

法名も戒名と同様に、本来は生前にいただきます。浄土真宗では、仏弟子となるための「帰敬式(ききょうしき)」を経て授けられるのが一般的です。しかし、信者が帰敬式をせずに亡くなった場合には、儀式を経ずとも故人に合った法名が授けられます。

浄土真宗の法名には、「大姉」「居士」のような位号はありません。お釈迦様(釈尊)の弟子であると示す「釋(しゃく)」の文字が初めに付けられます。以前は男性「釋○○」、女性「釋尼○○」とされていましたが、現在は男女の区別なく「釋○○(2文字)」となります。
加えて位牌がないのも特徴で、「過去帳」に名前を記します。

御文章(御文)

浄土真宗の通夜や葬儀には、お経の一節として、「御文章(ごぶんしょう)」が読まれます。

御文章とは「蓮如上人(れんにょしょうにん)」によって書かれた手紙をまとめたものです。本願寺派では「御文章」、大谷派では「御文(おふみ)」とよばれます。

蓮如上人は親鸞聖人の教えを分かりやすい言葉で手紙にしました。蓮如上人は字の読めない民衆にも分かるよう、この手紙を口述して教えを説き、広く全国に浄土真宗の教義を広めました。その80通の手紙は、現在5帖に分けられています。

なかでも特に知名度が高く葬儀にかかわりが深いのが、第16通の「白骨の章」。世の無常について書かれたこの章は、必ずといってよいほど通夜などで読まれています。

浄土真宗の葬儀マナーを理解しよう

浄土真宗は日本で最も信徒が多く、広く知られている宗派です。その分、葬儀を取りおこなうことや参列の機会も多いことが予想されます。

葬儀を営む際は、戒名の代わりに「法名をいただく」、「過去帳を準備する」といった他の宗派と違う点に留意しましょう。

参列の際にも、「香典では御霊前と書かない」、「ご冥福という言葉を使ってはいけない」「宗派によって焼香の回数が異なる」など、浄土真宗特有のふるまいに注意が必要です。

浄土真宗の葬儀では、「故人の代わりにお勤めする」という気持ちを忘れてはいけません。臨終勤行では故人に代って、阿弥陀如来に感謝の祈りを捧げることが大切です。