清拭の意味は?きれいに拭き清めて故人の新たな旅立ちを願う【エンゼルケア】

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清拭の意味は?きれいに拭き清めて故人の新たな旅立ちを願う【エンゼルケア】
清拭(せいしき)とは、入浴ができない人の体をきれいに拭き清める看護・介護用語です。特に亡くなった人にする清拭は「エンゼルケア」と呼ばれます。エンゼルケアでは清拭以外にも、医療的処置や整髪、お化粧もおこなわれるのが一般的です。この記事では、清拭とエンゼルケアについて紹介します。

清拭の意味と目的、エンゼルケアとの違い

病院や介護現場で見聞きすることが多い、「清拭(せいしき)」という言葉。清拭は生きている間だけではなく、人が亡くなったときにおこなう「エンゼルケア」の中でもおこなわれます。ここでは清拭の意味と目的、エンゼルケアとの違いについて紹介します。

清拭はお風呂に入れない人の体を清潔に保つこと

清拭とは病気や怪我などで入浴ができない人の体を、温かいタオルで拭くことを指します。老人ホームなどの介護施設では、体を思うように動かせず、入浴が困難な利用者に対しておこないます。

清拭の主な目的は、体の清潔を保つことです。また、温かいタオルで体を拭くことで、不安定な心が落ち着いたり血行が促進されたりするなど、さまざまなメリットもあります。

特に、褥瘡(じょくそう)の予防には清拭が重要です。褥瘡とは、寝たきりの生活を続けることで体が圧迫され、血流が悪くなった結果、圧迫された部分の皮膚が赤くなってただれたり、傷ができたりする状態のこと。温かいタオルで清拭することで血流が改善され、結果的に褥瘡を予防できたり、皮膚の状態を確認することで褥瘡をいち早く発見できたりします。

また、清拭時は体を動かすため関節運動にもなります。顔や手足だけなど、体の一部分だけを拭くことを「部分清拭」、体全体を拭くことを「全身清拭」と呼びます。

エンゼルケアは亡くなった人が旅立つための準備

人が亡くなった後におこなわれる、旅立ちの儀式のことをエンゼルケアと呼びます。エンゼルケアの主な目的は、故人を生前の姿に近づけたり、排泄物や体液などを処理することによりご遺体と対面する遺族や身近な人への感染を予防したりすることです。

亡くなった場所が病院の場合は医師や看護師が、自宅では遺族が、介護施設では介護士や看護師がエンゼルケアをします。自宅で看取った場合は、葬儀社や訪問看護師に清拭を依頼することも可能です。

エンゼルケアは死後硬直の前にするため、最期を迎えた場所にかかわらず、医師から臨終を告げられた後、2~3時間以内におこなうのが一般的です。

エンゼルケアでは清拭以外もおこなわれる

亡くなった場所が病院だった場合、まずは体に装着していた医療機器を外します。その後、いくつかの処置やケアをおこなってから清拭をします。一般的な清拭と、エンゼルケアの一環としておこなわれる清拭のやり方は基本的には同じです。清拭が終わったらご遺体の衣服を取り換えて、整髪やお化粧をします。これら一連の流れがエンゼルケアです。

エンゼルケアの手順〜清拭をして送り出すまで〜

病院でおこなうエンゼルケアと、自宅でおこなうエンゼルケアの大きな違いは医療的な処置の有無です。流れに違いはあっても、「大切な人をきれいな姿で見送りたい」という想いは同じです。順を追ってエンゼルケアの流れを解説します。

自宅と病院のエンゼルケアの違いは2つ

自宅と病院でおこなうエンゼルケアは、医療的な処置の他に必要な物品も異なります。まず、遺族が準備するべき主な物品は以下の通りです。

<自宅>
・ディスポ手袋、またはゴム手袋
・マスク
・お湯を溜めるための桶、またはバケツ
・清拭用のタオル
・石鹸、シャンプー、リンス
・紙おむつ、歯ブラシ
・衣服
・化粧品
・かつら、髪飾り
・アクセサリー

病院の場合は、エンゼルケアに必要な物品を遺族が準備する必要はありません。しかし、故人が生前に身に着けていた物や、愛用していた物を準備すると、エンゼルケアがより良いものになることでしょう。主な物品例は以下の通りです。

<病院>
・かつら、髪飾り
・アクセサリー
・化粧品
・お気に入りだった衣服

自宅で遺族のみでおこなうエンゼルケアでは、医療的な処置はおこないません。一方の病院でおこなうエンゼルケアは、体に装着していた医療機器を医療従事者が外し、必要に応じて傷を処置するところから始まります。

医療機器を外した後は、胃の内部に残ったものを取り除いたり、便や尿を排出したり、口腔内や鼻腔内の吸引をしたりします。口腔ケアの目的は、口の中をきれいな状態にする、臭気を防止することなど。ガーゼや歯ブラシを使用するのが一般的です。その他、開口を防ぐ処置や眼内ケアなどもおこないます。

手順①体全体の清拭

濡れたタオルを使って全身清拭をおこないます。自宅の場合は、準備しておいた桶やバケツにお湯を溜め、タオルを浸してから固く絞りましょう。皮膚を傷つけないように、全身を優しく丁寧に拭いてください。

全身清拭の後、もしくは同時に髪の毛を洗います。男性の場合はヒゲを剃りますが、皮膚が傷つかないよう丁寧におこなうことと、皮膚を守るために剃り終わった後は保湿をすることが大切です。

病院では、看護師や医師が清拭をするのが一般的ですが、遺族の手伝いを許可しているケースもあります。「大切な人の最期にかかわりたい」と思ったときは、病院のスタッフにその旨を伝えてみましょう。

手順②衣服の着替え

全身清拭や洗髪などが終わったら、ご遺体の衣服を交換します。死後の衣服は宗教によって考え方が異なりますので、あらかじめ確認しておいてください。病院では用意された浴衣などに着替えることもありますが、死装束(しにしょうぞく)に着替えることが一般的です。

着替える際は下着を紙オムツに交換し、死装束の場合は襟を左前にし、帯は縦結びにします。死後に着替える衣服は、故人が好きだった服や遺族が望む服でも良いとされています。

手順③髪や顔を整える

衣服を交換した後は、必要に応じてウィッグやかつら、髪飾りやアクセサリーを装着します。顔色を良く見せるため、女性だけでなく男性にも薄化粧を施します。化粧水や乳液などのスキンケアアイテムを使って、肌のお手入れをしてからお化粧を始めましょう。

手順④その他

最後に、ご遺体を合掌のポーズにします。病院では、合掌バンドと呼ばれるゴム製のバンドを使用して手首を固定するケースも。合掌バンドはご遺体を搬送する際に、腕が下がってしまうのを防止するために装着するアイテムなので、安置後は必ず外します。

安置したご遺体を合掌のポーズにした後は、体と顔に白い布やシーツをかけるのが一般的です。しかし特に決まりはないので、遺族が抵抗を感じる場合はしなくても良いとされています。

清拭やお化粧などエンゼルケアの費用相場

エンゼルケアは病院でおこなう場合と、葬儀社に依頼する場合で費用が異なります。ここでは、それぞれの費用相場と簡単な内訳を紹介します。

病院でおこなう場合

エンゼルケアは治療ではないため、費用は病院によって異なります。病院の判断や浴衣の有無などによって金額は変動しますが、相場は無料~50,000円です。

葬儀社に依頼する場合

お化粧などの簡易的なものを葬儀社に依頼するケースは30,000円、清拭と着替えのみは60,000円が相場です。湯灌(ゆかん)の相場は100,000円前後。湯灌とは、清拭の他に沐浴(もくよく)をする儀式のことです。湯灌には「体を洗い清めることで現世での汚れを落とす」という意味の他に、赤ちゃんが産湯に漬かるときと同じく、「新しい旅立ちを願う」気持ちが込められています。

葬儀社がおこなう納棺には宗教儀礼も加わるため、価格は施行内容によって異なります。差異の目安は前後10,000~20,000円ほど。また、費用は葬儀社によっても異なります。

故人の清拭をして死とゆっくり向き合う

清拭は故人が旅立つための準備でもありますが、遺族が大切な人の死と向き合う大事な時間でもあります。故人へのエンゼルケアは、遺族の心のケアにもつながります。見送る側も見送られる側も心残りのない最期のために、清拭に対してもよく考えておく必要があるのではないでしょうか。