湯灌とは最後に身を清めること。おこなう意味や費用を紹介

わたしのお葬式
湯灌とは最後に身を清めること。おこなう意味や費用を紹介

この記事はこんな方におすすめです

葬儀プランを考えている
湯灌の詳細、エンバーミングや死化粧との違いが知りたい
湯灌(ゆかん)とは、納棺前に故人のご遺体をぬるま湯で洗い清める行為のこと。普通湯灌のほか、古式湯灌などの種類があり、後者はお湯を使わずに体を拭き清めます。葬儀の基本プランに含まれないこともあるので、事前に検討しておくと良いかもしれません。この記事では湯灌の意味や依頼方法と費用、流れなどを解説します。

故人の身を清める湯灌の意味と目的

湯灌(ゆかん)は、古くからおこなわれている慣習です。まずは湯灌とは何か、意味やおこなう理由を解説します。

納棺前に故人の遺体を洗い清めること

湯灌とは、故人のご遺体をお湯で洗い清めることです。日本では体を清める行為を“湯灌”と、湯灌をおこなうことを“湯灌の儀”と呼ぶのが一般的ですが、世界のほかの宗教では「沐浴(もくよく)」という言葉が多く使われています。

湯灌の種類

湯灌には、通常の湯灌と古式湯灌の大きく2種類があり、ご遺体を清める方法が異なります。
  • 湯灌…湯船やシャワーで洗い清める。「普通湯灌」や「洗体湯灌」、「シャワー湯灌」と呼ばれることもある。
  • 古式湯灌…アルコール綿などで拭き清める。
古式湯灌のように、湯灌という名称のサービスでもシャワーを使わないこともあります。また、湯灌は葬儀社によって名称や提供内容が変わることが多いので、依頼前によく確認する必要があります。

湯灌の儀の役割

湯灌の儀は、ご遺体の状態を見定める役割も担う儀式です。状態が悪い部分を見つけた際は、湯灌師が丁寧にケアしてくれます。また家族が参加できる場合もあります。そういった意味では湯灌をおこなうことで、より衛生的なお別れが実現可能です。実際、ご遺族から「きれいな状態でお別れができた」との声も多く聞かれます。

この世の穢れと苦しみを清めることが目的

湯灌には「生まれたての赤ちゃんが産湯につかるように、現世の穢れと苦しみを清め、来世で新たに生まれ変わってほしい」との想いが込められています。
また、湯灌は体液の漏れなどの汚れからご遺体を清潔に保ち、納棺までに腐敗が進むのを防ぐ目的も。それ以外では、故人がお風呂好きであったり、長期間の入院で満足に入浴できなかったりする場合にも施されます。
湯灌は送る側の家族の悲しみも洗い涙を拭うような儀式です。人生最後の入浴には、温泉大国に住む日本人の心を癒し慰める効果があるのかもしれません。

湯灌と混同しやすい死化粧、エンゼルケア、エンバーミングの違い

湯灌と混同されやすい死化粧、エンゼルケア、エンバーミング。人が亡くなった後におこなうのは同じですが、それぞれ違いがあります。湯灌とそれぞれの施しとの違いを解説します。

死化粧|故人の身なりを整え、化粧を施すこと

故人があの世へ旅立つ際、身なりを整え、化粧を施すことを死化粧と言います。死化粧でもアルコールで体を拭き、清潔にする清拭がおこなわれる場合も。湯灌と異なる点は、死化粧ではシャワーや入浴をおこなわないところです。
ちなみに、死化粧は希望をすれば湯灌と同様に家族も一緒におこなえる場合があります。葬儀社によっては湯灌の流れの一部として死化粧がおこなわれるので、どんなことができるのか事前に確認しておくと良いかもしれません。

エンゼルケア|病院で亡くなった遺体に施される医療的な処置

エンゼルケアとは、死化粧を含めるご遺体の処置全般を言います。大きく分けて、感染症予防などの衛生保全と、身なりを整えることが目的です。エンゼルケアでは、アルコール除菌シートや蒸しタオルなどで体を清め、治療などによる傷口の手当てなどの処置がおこなわれます。
その上で髪や爪を整え、男性はヒゲを剃り、女性には化粧を施すなど故人の身なりを整えます。

エンバーミング|遺体を衛生的に長期保存するための処置

エンバーミングとは、ご遺体を1か月以上保存できるようにした処置方法です。殺菌消毒して専用剤を注入し、遺体の腐敗を防止します。ドライアイスがなくても、衛生的に長期保存が可能となります。

湯灌の依頼方法と費用目安

湯灌は葬儀社へ依頼可能です。費用は依頼する内容によって異なるため、事前に葬儀社へ相談しておくと家族にも伝えられます。湯灌の依頼方法と費用を解説します。

葬儀のプラン内かオプションかを確認する

湯灌は葬儀プランに含まれる場合もありますが、オプションであることが多いです。オプションの場合、葬儀プランの基本料金とは別に追加料金がかかります。また、家族葬のファミーユの各ホールでも様々なプランがあります。プラン内に湯灌の記載があっても、清拭のみか、シャワー使用かなども含めて葬儀社スタッフへの事前確認をおすすめします。

費用は約5万円から10万円

湯灌の費用は葬儀社によって異なります。費用の目安は入浴をせず、手足を清拭するだけなら5万円前後から、湯灌から納棺までは8万円から10万円前後です。セットプランは割安に設定されていることが多いです。
また、一般的に湯灌は葬儀場または自宅でおこなわれます。

葬儀社に依頼した場合の湯灌の流れ

湯灌の流れは遺族の希望などによっても若干異なる場合がありますが、一例を紹介します。

1.準備~口上

湯灌は自宅、もしくは葬儀場や葬儀社の一室でおこなわれるのが一般的です。葬儀場や葬儀社の一室でおこなう場合は、自宅よりも準備に手間がかかりません。自宅で洗体湯灌などの浴式をおこなう場合は、専門スタッフが浴槽のセットを運搬して準備します。
準備が完了したら、口上(こうじょう)と全身マッサージがおこなわれます。口上とは、湯灌がどういった行為なのか、専門スタッフや湯灌師が口頭で説明すること。全身マッサージは、ご遺体の死後硬直を緩和することが目的です。

2.逆さ水の儀式

全身マッサージの後は、逆さ水の儀式がおこなわれます。逆さ水とは、まず浴槽に水を張り、そこにお湯を足して適温に調節すること。日常の入浴では浴槽にお湯を入れた後に水を足して温度調節をしますが、その逆の手順でおこないます。
逆さ水の儀式は、葬儀の際におこなう「逆さごと」の一つです。「逆さごと」は、葬儀に関することを通常とは逆の方法でおこない、生きている人がいるこの世から死者を送り出す意味を持ちます。「あの世とこの世はすべてのことが逆になっている」という考えが由来とされます。

3.遺体のお清め

ぬるま湯をかけてご遺体を清めます。遺族が一緒に参加する場合、足元から胸元にゆっくりぬるま湯をかけます。故人の体が見えないようにタオルなどで目隠しがされるため、立ち会う場合も安心です。

4.顔や髪の毛の手入れ

ご遺体のお清めが終わったら、専門のスタッフが故人の顔や髪の毛を洗うとともに、男性はヒゲ剃り、女性は顔の産毛を剃るなどの手入れをします。終わったら顔をタオルで拭き、髪の毛をドライヤーで乾かします。このとき、故人が生前に愛用していたシャンプーなどを使用できることも。希望する場合はスタッフへ事前に相談してください。

5.着替えと化粧

ご遺体を清めた後、着替えと化粧を施します。経帷子(きょうかたびら)のような儀式に則ったもの以外に、故人が愛用した衣服を着せるケースも多くなっています。
化粧をする理由は、故人の顔色を明るくするためです。希望があれば、男性も化粧を施して肌や唇の色を整えられます。なお、シャンプーなどと同じく、事前にスタッフへ相談をしておけば故人が愛用していた化粧品を使用できる場合もあります。

6.納棺

着替えと化粧をして身なりを整えたら、ご遺体を納棺します。湯灌の所要時間は、準備から着替えと化粧が完了するまでで、約1時間から1時間半です。

家族に伝えておきたい湯灌に関する希望

湯灌は自分の死後におこなわれるため、やるやらないの意思は家族に伝えておくと安心です。最後に、湯灌について家族に伝えておきたいこととして、立ち会ってほしい人がいるか、湯灌後着用したい衣服の希望はあるか、そして湯灌を希望しない場合を説明します。

立ち会う人

湯灌は立ち会う人がいなくても進められますが、遺族や親族であれば立ち会いが可能です。立ち会ってもらう人に希望があれば、事前に家族に伝えておきます。
ただし、小さな子どもの立ち合いは注意が必要です。湯灌をおこなうスタッフの邪魔になったり、泣き出したりする可能性があります。湯灌に立ち会ってもらう人は、しっかり検討した上で決めておきます。

湯灌後に着用する衣服

湯灌後に着用する衣服に希望がある場合は、事前に家族へ伝えておくと安心です。家族の中には、仏衣や神衣以外を着せるのに抵抗がある人もいるかもしれないため、しっかり話し合っておくことが大切です。
なお、死後硬直をすると着替えが困難になります。衣服のサイズにゆとりがなかったり、滑りにくい生地だったりすると着せづらい場合も。衣服に希望がある場合は、着替えのしやすさも考慮したいところです。

湯灌をおこないたくないときは

湯灌の際、いくら傍から見えないとはいえ「人が集まる中で裸の姿を晒したくない」という人もいるはずです。また、清拭するので不要、という考えもあります。湯灌をおこなわなくて良いと考えている場合は、不要である旨を家族に伝えておくのが良いでしょう。

ただし、長期入院などでお風呂に入る機会がないまま亡くなることもあります。また、お葬式の数ある儀式の中で立会人が「感動した」という声が多いのも湯灌です。いろいろな状況を想定して、考えてみることをおすすめします。

湯灌はお別れの時間。希望があれば事前に家族に伝えておこう

湯灌は故人のご遺体を洗い清め、あの世への旅立ちの準備をする大切な時間です。終活をする際は、湯灌も含めて自身の葬儀について葬儀社のスタッフへ相談してみてください。また、これをきっかけに葬儀について、家族と話し合ってみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当。