死化粧で故人を安らかに送り出す。納棺前に施すケアを紹介

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死化粧で故人を安らかに送り出す。納棺前に施すケアを紹介
死化粧(しにげしょう)とは、故人が安らかな表情になるよう化粧を施すことのほかに、亡くなった後のご遺体の処置全般を指します。死化粧を通して気持ちに整理をつけ、心穏やかに故人を見送るという意味で、遺族にとっても大切な行為です。この記事では、死化粧の概要や流れ、死化粧にかかる費用などについて解説します。

ご遺体を清め整える死化粧

安らかに故人を見送るために欠かせない、死化粧。故人と遺族、どちらにとっても大切な行為の1つです。ここでは、死化粧の内容や、エンゼルケアとの違い、歴史について紹介します。死化粧について知るための第一歩として、役立ててください。

故人の容姿を整える行為

死化粧は、ご遺体の身なりを整え安らかな表情になるよう、化粧を施すこと。最後の瞬間まで美しくありたいという故人の願いをかなえるだけでなく、大切な人を失った遺族を癒やすことにもつながります。悲しみに整理をつけ心残りなく故人を送るためにも、生前を彷彿とさせる姿に導くのはとても大切な行為です。

エンゼルケアとの違い

ご遺体におこなわれる処置の1つとして、エンゼルケアと呼ばれるものがあります。エンゼルケアは、病院で亡くなったご遺体に施される医療的な処置のこと。感染症予防などの衛生保全と身なりを整えることの大きく二つの役割があります。具体的には、具体的には、アルコール除菌シートや蒸しタオルなどで体を拭く、傷の手当てをする、といったことがおこなわれます。
また、ヘアスタイルや爪を整えるほか、男性はヒゲを剃り、女性には化粧を施す場合があります。そのためエンゼルケアには、死化粧が含まれるパターンが少なくありません。

湯灌と死化粧の歴史

ご遺体を清めてからあの世へ送る湯灌(ゆかん)の風習は、鎌倉時代には存在していたと言われています。江戸時代では、地主や家を持っている人以外の人たちは民家でご遺体を清めることを禁じていたため、湯灌場を設置した寺院がありました。
死化粧は、地方によっては遺族がおこなう俗習とされていましたが、次第に葬儀社のサービスの一環となり、その後、死化粧を専業とする職も誕生しました。現在では死化粧を「エンゼルメイク」と呼び変えてサービスをおこなう元看護師や、葬儀社からの依頼を受託する専属の機関など、多種多様な形態で死化粧を専業とする人がいます。

いつ、誰が、死化粧をおこなうか

死化粧を施すタイミングは、故人が亡くなった状況によって変わります。ここではさまざまなケースを想定した上で、死化粧のタイミング、どんな人が担当するのかについて紹介します。

死化粧をおこなうタイミングと注意点

故人が逝去してから棺に納められるまでの間に、死化粧をします。

ただし故人が自宅であの世に旅立った場合は、遺族の独断で死化粧を施してはいけません。まずは自宅に医師を呼び、死亡確認をします。医師から死亡診断書が出された後に、死化粧を施すようにしましょう。

死化粧を担当する人の職業

故人が医療機関で亡くなった場合、死化粧を施す人は病院によって異なります。看護師がおこなう場合や、葬儀社に外注する場合などがあります。ときには遺族も一緒に死化粧を施すことがありますが、ご遺体に触れるときには感染症対策のために必ず手袋をするように促されます。
この他、介護施設では介護士が、自宅ではエンゼルケアを専業とする人や、葬儀社のスタッフに依頼することがほとんどです。葬儀社には「死化粧師」の通称で知られる、遺体美粧衛生師がいるところもあります。
ちなみに、医療機関では入浴まで対応してくれないことが多いようです。故人が長く入院されていた場合などは、納棺師による湯灌もおすすめです。納棺師について詳しく知りたいときは、下記の記事を参考にしてみてください。

死化粧の流れ

死化粧をする場所も状況によって変わります。一般的には病院で亡くなる場合が多いため、ここでは病院における死化粧の流れを紹介します。

ご遺体を整える

ご遺体を整える処置は、看護師や医師によっておこなわれます。「医療器具を取り外す」「胃に残ったものや排泄物を出す」「口の周りを綺麗にする」といった流れが一般的です。故人が気持ち良く旅立つための大切な行為と言えます。

身体を清拭する

医療機関では、ご遺体を拭いて綺麗にする清拭(せいしき)をおこなうことがほとんどです。病院によって対応が異なりますが、遺族の要望によっては葬儀社に依頼して湯灌をおこなうこともあります。人は亡くなった後に皮脂の分泌がおこなわれなくなるので、体を拭いたり入浴させたりした後は、保湿剤を使って乾燥を防ぐ必要があります。
ちなみにご遺体を拭く処置は、遺族のお手伝いを許可してくれる病院もあるようです。もし「自分の手で大切な人を清めたい」と思った場合は、看護師や医師に申し出てみてください。許可が出た場合は、専門家の指導に従い故人との思い出を振り返りながら思いを込めてケアをします。

綿詰めをおこなう

綿詰めは耳や口、鼻などから体液が流出するのを防ぐための処置です。しかし近年は体液の流出を防ぐ効果に疑義が出てきたことから、綿詰めをしないこともあります。

服を着替えさせる

ご遺体を綺麗にしたら、病院が提供する浴衣や故人が気に入っていた服などに着替えさせます。看護師だけでなく、遺族が着替えをお手伝いできることもあるため、希望する場合は申し出ると良いかもしれません。なお浴衣の襟の位置や帯の結び方は、生前の方法とは異なるので気を付けてください。

整容・化粧をおこなう

医療機関によっては看護師が整容や化粧まで担当したり、遺族がお手伝いできたりする場合がありますが、なかには対応していない病院もあります。死化粧までおこなってもらえるか、遺族が手伝いをできるのか、費用はどのくらいか、事前に確認するのがおすすめです。
髪を整える際には、ブラシでとかす以外にドライシャンプーで洗うこともあります。男性にヒゲが生えているときは、剃って綺麗な状態に整えるのが一般的です。死後は皮膚が固くなりやすいので、化粧水やクリームなどでやわらかな状態にします。
化粧は生前のときと同じ方法で差し支えありません。故人が好きだった色を使ったり、顔の色味に合わせたり、好みの方法で化粧を施します。故人と向き合い生前の姿を思い浮かべながら、化粧をしてあげると良いかもしれません。ただし、血色が悪くなるのでいつもの雰囲気を出すのは難しいかもしれません。

手を合掌の形にして、布で覆う

最後に胸元に両手を置いて、合掌の形を作ります。ご遺体に白い布をかけるのが一般的ですが、遺族の希望によってはおこなわないことも。こうした処置は看護師のほか、提携先の業者が着替えや死化粧も含めて担当するときがあります。

死化粧にかかる費用

死化粧は亡くなる場所や依頼する人、内容によって費用の幅があります。葬儀社と病院とでは内容や相場が異なり、提供するサービスによって価格が変動することもあるので、事前に確認するのがおすすめです。
なおエンゼルケアは医療保険の適用外となるため、注意が必要です。おおよその内容・費用相場については、下記の表を参考にしてください。
依頼先   内容 費用相場
葬儀社・専門業者  湯灌や着替え、死化粧など 3万円~10万円
病院   ご遺体を整える処置や清拭など(湯灌や死化粧などは対応できない場合や、葬儀社・専門業者に委託することがある) 3,000円~1万5,000円
介護施設 清拭や更衣、フェイスケアなど 1万5,000円~2万円

死化粧は故人を安らかに送り出し遺族の心を癒す大切なケア

故人を気持ち良く旅立たせる死化粧。遺族が悲しみを乗り越え、穏やかに故人を見送るという意味でも、重要な行為と言えます。納得のいく送り方を検討するには、死化粧の知識もあって然りです。故人と向き合う時間を大切に過ごし、安らかに送り出せるようにしてくださいね。

この記事の監修者

瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当。