心に寄り添うグリーフケアとは? 悲しみから立ち直り「生きる」ためにできること

わたしのお葬式
心に寄り添うグリーフケアとは? 悲しみから立ち直り「生きる」ためにできること
大切な人を失った悲しみから立ち直る手段として、今注目されている「グリーフケア」。最愛のパートナーや親しい友人などを失い深い悲しみの中にある人を、医療従事者のカウンセリングや専門プログラムを通じて支える取り組みのことを指します。この記事では、グリーフケアの詳細を解説します。

グリーフケアを知る

最初にグリーフケアの内容や意味、ケアを必要とする時の症状といった基本情報をお伝えします。

グリーフケアとは

グリーフケアとは、悲しみの中にある人をサポートすることです。具体的には、病院での治療、専門家によるカウンセリング、ケアを必要とする集団によるワークショップ、日常生活での対処療法など、多彩な手法が含まれます。

大切な人を亡くした悲しみから立ち直る鍵は、悲嘆のプロセス(グリーフワーク)にあるといわれます。そのプロセスに沿って、自身の気持ちを整理したり、周囲から継続的なサポートを受けることが大切です。

グリーフワークでは「ショック期」「喪失期」「閉じこもり期」「再生期」のプロセスをたどるとされています。ただ、回復のプロセスや時間の長短は人それぞれであり、落ち着いていた感情が突如激しい悲しみに変わるケースもあります。また、後戻りがあったり、段階が前後したりなど、回復や後退を繰り返します。周囲は徐々に元の状態へ戻れるようにサポートします。

グリーフケアの意味

「grief(グリーフ)」とは、死別などによる深い悲しみや悲痛を意味する言葉です。その悲しみを「care(世話)」することから、遺族ケアや悲嘆ケアともいわれます。

グリーフケアには、大切な人を失って深い悲しみを抱える人に寄り添い支えて、立ち直ることができるようにサポートする、という意味があります。

グリーフケアの歴史

今から約60年前の1960年代、グリーフケアはアメリカで始まりました。その後、ヨーロッパへと広がり、日本は1970年代にグリーフケアの研究に取り掛かっています。アメリカ・イギリス・オーストラリアなどの病院では、患者が亡くなったあとも遺族が定期的に同じ病院を訪れ、グリーフケアを受けることが一般化しています。

通常、傷ついた心は時間をかけて徐々に回復していきますが、あまりに悲しみが深いと立ち直れなかったり、立ち直るまでにかなりの時間がかかったりする場合も。特に家族や地域社会など人とのかかわりが少なくなっている現代では、悲しみを1人で抱え込んでしまう人も増えています。そんな背景から、日本でも各地の医療機関や市民グループなどがグリーフケアに積極的に取り組んでいます。

グリーフケアを必要とする症状・反応

大切な人を亡くした悲しみは心、身体、行動・認知にさまざまな症状・反応をもたらします。以下のような症状・反応を自覚している場合は、周囲にサポートを求めることを考えましょう。

【心の症状】
罪責感、思慕の情、自責の念、悲しみ、寂しさ、自尊心の欠如、絶望感、非現実感、憂鬱、不安、怒り、敵意、幻覚など

【身体の症状】
睡眠障害、食欲喪失、呼吸障害、疲労感、気力喪失、頭痛・嘔吐・消化不良・動悸などの身体的愁訴、故人と同じ症状の出現、アルコールや薬の依存など

【行動・認知に現れる反応】
号泣、注意力の低下、行動パターンの喪失、故人の行動の模倣など

グリーフケアを日常的におこなう

悲しみから立ち直るために大切なグリーフケアは、必要なときにすぐに始められます。ここでは、グリーフケアの方法について解説します。

悲しみに向き合う

グリーフケアの大きなポイントは、「悲しみを押さえ込まず肯定する」ことです。

周囲にすぐ相談できる人がいない場合は、まず自分自身で自分の気持ちをそのまま認めることを意識してみましょう。悲しいと感じていることは自然な感情であり、抑え込んで無理に明るくふるまう必要はありません。

故人について語り、思いを伝える

悲しみを乗り越えるには、感情を思い切り外に吐き出すことも必要なプロセス。悲しみ以外の怒り、後悔などさまざまな複雑な感情も、そのまま吐き出すことが効果的です。

身内や知り合いに自分の感情を吐き出すのが難しい場合は、同じ境遇の人が集まる会に参加すると、共感できる部分を見つけやすく思いを伝えやすくなります。

セレモニーをおこなう

葬儀やお別れ会など、故人とのお別れセレモニー自体もグリーフケアの1つです。葬儀は悲しみの表現として泣き叫んだり、怒ったりといった行動が許容されている場でもあり、同じ悲しみを共有する人と故人について語り合うこともできます。

通夜から葬儀・告別式、火葬の一連の流れでしっかりと故人を思い、悲しみを吐き出すことも、グリーフケアの大切なプロセスと言えるでしょう。もちろん、その後の法要、仏壇、お墓参りなどの供養も必要な過程です。

グリーフケアを深く体験する

深い悲しみから立ち直るためには、病院や専門のアドバイザーからグリーフケアを受けることも大切です。そこで続いては、グリーフケア外来や体験会、グリーフケアを学べる書籍などを紹介します。

グリーフケア外来

大切な人を亡くしてグリーフを抱えることは、決して病気ではありません。しかし、病気でなくても苦しい状態であるのは変わりません。ときにはうつ病を発症してしまう場合もあります。

グリーフケアは心療内科や精神科で対処できる場合もありますが、死別の心のケアは特殊であり専門性が求められる分野でもあります。そのため、病院の中には「グリーフケア外来」「遺族外来」がある場合も。病院でグリーフケアを受けることで、投薬などが必要な場合にすぐに治療を始められます。

病院によっては診療科の1つではなく「遺族会」を設けているケースもあります。病院と連携しているため、必要な場合には治療につなげることが可能です。

グリーフケアアドバイザー

病院以外で受ける場合は、資格を有する「グリーフケアアドバイザー」に頼るのも1つの方法です。例えば、日本グリーフケア協会に問い合わせてワークショップに参加すると、グリーフケアを受けることができます。

グリーフケア体験会

全国各地には、グリーフを抱えた人々が集まり分かち合う場を設けている自助グループやサポートグループ、遺族会、分かち合いの会などがあります。

また、遺族と接する機会の多い葬儀社がグリーフケアの一環として遺族同士の交流会や、専門家の後援会を主催する場合も。グリーフケアについて深く学びたい人向けに公開講座をおこなっている大学もあります。

グリーフケアの本

体験する前に、まずはグリーフケアの内容を知りたいという場合は、参考図書を手に取ってみるのもおすすめです。遺族会が書いている本や専門家の本など、立場によってグリーフケアの考え方が異なります。一番しっくりくる本を探してみましょう。

【専門家】
『死別の悲しみに向き合う グリーフケアとは何か』(坂口幸弘・著/講談社現代新書)
グリーフケアとは何か、興味を持ったときにまずは読んでおきたい本です。

【作家】
『やまない雨はない 妻の死、うつ病、それから…』(倉嶋厚・著/文春文庫)
気象エッセイストの倉嶋厚さんが妻を亡くし、自死を試みたあと精神科にかかり回復するまでの過程を記しています。

【遺族会手記】
『会いたい 自死で逝った愛しいあなたへ』(全国自死遺族連絡会・編/明石書店)
自死で大切な人を亡くした遺族会の手記。グリーフがどんなものか、心に刺さる本です。

【入門書】
『グリーフケア入門 悲嘆のさなかにある人を支える』(高木慶子・編著/勁草書房)
グリーフを抱えた人を支えたいと思ったときに読みたい学問的な入門書です。

悲しみと向き合い生きるために

深い悲しみから立ち直るには、数多くのプロセスと長い時間を必要とします。大切な人を思い、悲しみに浸ることは、新たな生きる力を得るために必要な作業です。まず、今の自分の気持ちを受け入れられるように、複雑な気持ちをそのまま吐き出す(書き出す)ことから始めてみてはいかがでしょうか。