土葬を解説。日本に古くから伝わる「土に還る」という選択肢

法事・お墓
土葬を解説。日本に古くから伝わる「土に還る」という選択肢
ご遺体を焼骨せず、そのままの姿で埋葬する土葬。「土に還る」という思想に合う埋葬方法です。ただし、日本では火葬が主流で土葬は現実的ではありません。なぜそのようになったのか、土葬の現状と歴史から見ていきます。現代の日本で土葬が難しい理由や樹木葬との違い、土葬のメリット・デメリットも紹介します。

古くから伝わる風習「土葬」について

日本を含め、土葬は世界で古くからおこなわれてきた埋葬方法です。まずは土葬の意味と日本における現状から紹介していきます。

土葬の選択は宗教による影響も

ご遺体を火葬場などで焼かずに地中へ埋葬するのが土葬です。現在の日本は主に火葬ですが、世界的に見ると「土葬と火葬を選択する人の割合は約半分ずつ」「土葬の割合が9割以上」といった国もあります。なかでもキリスト教やイスラム教、儒教の勢力が大きい国では土葬が選ばれやすいようです。

現状、日本で土葬は可能だが実現は難しい

現在の日本では火葬が一般的とはいえ、土葬は法律で禁止されていません。実際に「墓地、埋葬等に関する法律」の第2条には“この法律で「埋葬」とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう。”と記載があります。
しかし、条例などによって土葬を禁止しているエリアのある自治体や寺院・霊園が圧倒的です。土葬できる墓地は全国を見てもきわめて少ないので、土葬の実現は難易度が高いといえます。

日本における「土葬」の歴史

火葬よりも前におこなわれていたのが土葬です。日本で土葬はいつ頃からおこなわれていたのか、気になる人のために、日本における土葬の歴史を紹介します。

1.土葬の始まり

土葬の歴史は古く、縄文時代にはおこなわれていたことが分かっています。当時の土葬は“屈葬(くっそう)”と呼ばれる埋葬方法でした。屈葬とは、身体を折り曲げた状態で埋葬することで、日本以外だとアフリカなど世界でも非常に古くからみられる埋葬方法です。この形をとった理由は墓穴を小さくするためなど諸説あり、「死者の魂が浮き上がらないように」や「ご遺体に邪悪な念が入り込まないように」といった願いが込められたという説もあります。

2.土葬が一般的な時代が続く

弥生時代になると、“伸展葬(しんてんそう)”と呼ばれる埋葬法が主流になります。伸展葬とは、土葬をする際にご遺体を仰向けの状態で寝かせ、四肢を伸ばした状態で埋葬する方法です。「故人を永遠の寝姿に安置する」という考えが強いとされます。
その後、古墳時代になると古墳が登場。権力を持つ豪族のご遺体は棺に納められるようになりました。

3.火葬の登場

日本では、飛鳥時代(紀元600年頃)には火葬がおこなわれていたとされます。しかし、対象は僧侶や持統天皇など限られた人物のみであり、一般庶民は変わらず土葬が主流だったようです。
その後、鎌倉時代になると浄土宗や浄土真宗が世に浸透し、彼らによって火葬と供養がおこなわれたことで、一般庶民にも火葬が浸透するようになります。とはいえ、当時は火葬場が少ない上に火葬の技術も未熟だったため、火葬と土葬の両方がおこなわれていました。
明治時代にはコレラなどの伝染病が蔓延。伝染病によって亡くなった人のご遺体は火葬が義務付けられます。そして戦後となる1948年に、先述した「墓地、埋葬等に関する法律」が制定されました。この法律では火葬は義務化されていませんが、自治体は環境衛生などの理由から条例で土葬を制限。結果、実際には現代の日本の火葬率は100%近くと、ほぼ全員が火葬を選択しています。

4.土葬をなくせない現状

地震などの影響で火葬場が使用できなくなり、やむを得ず土葬にするケースもあります。

実際に2011年3月11日に発生した東日本大震災では、被災者のご遺体を一度土葬しています。これは仮埋葬で、その後に掘り出し、洗骨と火葬がなされました。

このように自然災害の多い日本では完全に土葬を廃止にしずらい現状があります。

現代の日本では「土葬」が難しい理由

日本でも完全にはなくならない土葬。とは言え、この火葬大国で土葬をするには多くの課題をクリアする必要があります。なぜ日本での土葬が難しいのか、その理由を解説します。

公衆衛生の問題と狭い国土事情

自治体によっては、条例で土葬禁止地域が定められています。東京都を例に挙げると、「墓地等の構造設備及び管理の基準等に関する条例」の第14条にて“知事は、公衆衛生その他公共の福祉を維持するために土葬を禁止する地域を指定することができる。”としています。
自治体がこのような条例を出すのは、公衆衛生の心配からだけではありません。人口に比べて国土が狭いことも理由のひとつです。土葬は火葬に比べて、人ひとりの埋葬に大きなスペースを要します。前述の東京都のように、人口の集中する都市部では火葬した骨壺を入れるお墓の確保も大変です。ましてやさらに広いスペースのいる土葬への対応は難しくなっています。

自宅の庭でも「土葬」は法律違反になる

土葬が可能な地域や霊園が見つからないからといって、自宅の敷地内にご遺体を埋葬するのは法律違反にあたります。なぜならば、「墓地、埋葬等に関する法律」にて「埋葬は墓地以外の区域におこなってはいけない」「埋葬をおこなう者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない」と定められているためです。知らずに埋葬してしまうと、死体遺棄罪に問われる恐れがあるので注意が必要です。
また、焼骨後のお骨を自宅の庭に埋葬するのも同様の理由で禁止されています。

「土葬」と「樹木葬」の違い

自然に囲まれて、土葬と似たイメージを抱かれやすい樹木葬(じゅもくそう)。しかし、土葬と樹木葬には大きな違いがあります。樹木葬は、墓石の代わりに桜やハナミズキなどの樹木を立てる埋葬方法です。土葬は火葬をしませんが、樹木葬では火葬後のお骨を埋葬します。
樹木葬では、お骨を骨壺に入れず埋葬したり、骨壺から焼骨(遺骨)を出し土に還る『袋』などに入れて埋葬します。樹木葬での納骨方法は運営会社によって異なるので、確認すると良いでしょう。「墓地埋葬法」によって認められた自然葬ですので、法律違反になることを心配せず「土に還る」という願いを叶えられます。
樹木葬の詳しい内容やメリット・デメリットはこちらの記事で紹介しています。

知っておきたい「土葬」のメリット・デメリット

そのままの姿で土に還れる土葬。人によっては理想的な埋葬方法かもしれませんが、知っておきたいデメリットも存在します。ここでは、土葬のメリット・デメリットの両方を紹介します。

メリット

土葬のメリットは主に次の4つです。
(1)土に還れる
古くから伝わる思想に「最後は土に還る」というものがあります。火葬をせずに埋葬する土葬は、正にその思想に沿った方法と言えるのではないでしょうか。
(2)故人をそのままの姿で埋葬できる
火葬をして故人をお骨にすることを悲しむ人もいますが、土葬ならそのままの姿で埋葬できるので、遺族の心の負担も軽くなるかもしれません。
(3)宗教によっては教義を守れる
世界的に見ると、キリスト教やイスラム教では土葬が主流です。キリスト教徒やイスラム教徒が土葬をすると、教義を守れたと安心できるかもしれません。

デメリット

土葬のデメリットは主に次の3つです。
(1)広いスペース・深い穴が必要
こちらは焼骨をせず、ご遺体をそのままの状態で埋葬する土葬ならではの問題点です。土葬では火葬よりも広いスペースを必要とする上、深い穴を掘る必要もあります。また、日本は国土が狭いため、以前から「いつかは土葬用の土地が不足する」と言われてきました。
(2)環境衛生に影響を及ぼす恐れがある
土葬されたご遺体はいつか腐ります。土に還ることは事実ですが、それによって地下水に悪影響を与えたり、感染症の原因になったりすることも考えられます。
(3)周囲に反対されるかもしれない
土葬を選択しようとすると、身内など周囲の人から反対される可能性があります。現代の日本では火葬が主流ですので、世間体を気にする人も少なくないはずです。その他にも衛生面や、その後の管理などを懸念する声もあがるかもしれません。

「土葬」からお墓や埋葬について考えてみる

火葬も土葬も、故人を想って弔うところは同じです。日本での土葬は実現させるのが難しく、仮に土葬のできる墓地をみつけても維持管理の大変さや一般的ではないゆえに周囲の反対もありそうです。自然に還る埋葬方法は他にもあるので、この機会にお墓や埋葬方法について考えてみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当。