浄土宗の葬儀マナーと作法。宗派の特徴を理解して参列を

お葬式のマナー・基礎知識
浄土宗の葬儀マナーと作法。宗派の特徴を理解して参列を
浄土宗は、法然上人(ほうねんしょうにん)が1175年に開いた宗派です。同じ仏教の葬儀でも宗派によって特徴があり、参列者のマナーも異なります。この記事では、知っておきたい浄土宗における葬儀の特徴とマナー・作法について解説します。浄土宗の葬儀に出席する場合や、宗派について詳しく知りたいときの参考にしてください。

浄土宗の基本情報

浄土宗は、日本における有名な仏教宗派の一つとして数えられます。普段仏教に接することがない人も、葬儀をきっかけに浄土宗に触れることがあるかもしれません。そんなときに知っておくと便利な浄土宗の基本情報と教えについて解説します。

浄土宗とは

浄土宗は、平安時代に法然上人によって開かれ、2024年には開宗850年を迎える仏教宗派の一つです。本尊は阿弥陀如来(あみだにょらい)、総本山は京都の知恩院です。知恩院のほかに、全国に七つの大本山があります。

法然上人は、「南無阿弥陀仏」と念仏をとなえることで、すべての人が平等に救われていく道を説きました。

「浄土三部経(じょうどさんぶきょう)」と呼ばれる3つのお経(経典)を拠り所としています。他にも、華厳経、法華経などを部分的に用いることがあるそうです。

浄土宗の教え

「専修念仏(せんじゅねんぶつ)」が浄土宗を開いた法然上人の教えです。これは、仏教の道理を理解していない人でも「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えることで、阿弥陀如来が平等に救ってくれるというものです。

浄土宗が開かれた時代は、内乱や疫病、天災など人々はさまざまなことに悩まされていました。本来なら人々を救うものであったはずの仏教は「貴族のもの」「厳しい修行や学問の習得が必要なもの」とされ、民衆からは切り離された存在であったとされています。

そんな現状に法然上人は疑問を持ち、専修念仏の教えを持った浄土宗を開きました。「念仏に専念することで極楽にいける」という考えは、厳しい状況に置かれた民衆に受け入れられて全国に広まり、現代に受け継がれています。

浄土宗における葬儀の特徴

一般的な仏教の葬儀と浄土宗の葬儀に大きな違いはありません。ただし、浄土宗は専修念仏の教えが中心にあるため、念仏の唱和が重視されます。このような特色を把握することで、葬儀中におこなわれる物事の意義を理解できるのではないでしょうか。そこで、ここでは浄土宗の葬儀における特徴について解説します。

参列者一同による「念仏一会」

亡くなった人の代わりに参列者が念仏を唱えることを「念仏一会(ねんぶついちえ)」と呼びます。「南無阿弥陀仏」と唱える回数は特に決められていませんが、10回またはそれ以上唱えるのが一般的です。念仏を唱えることで亡くなった人が阿弥陀如来に救われ、極楽浄土に生まれ変わるように手伝うのが主な目的です。

他の宗派の葬儀では僧侶のみ念仏を唱え、参列者は静かに聞くことが多いため、念仏一会は浄土宗ならではのものと言えます。亡くなった人が極楽往生できるよう、心を込めて念仏を唱えることが大切です。亡くなった人の思い出を振り返りながら、唱えてはいかがでしょうか。

僧侶による「下炬引導」

浄土宗における葬儀のメインとなるのが、下炬引導(あこいんどう)または引導下炬(いんどうあこ)です。下炬は、松明(たいまつ)で火を点けて火葬をするという意味の言葉です。もともとは棺に火を点けていましたが、現代は安全上の理由から仕草のみで実際に火を点けることはありません。

下炬引導に入ると僧侶は2本の松明を取り上げ、その内の1本を捨てます。これは、この世への煩悩を捨てることを表します。続いて残った松明で円を描きながら「下炬の偈(あこのげ)」を読み、最後に松明を捨てるのが基本の動作です。2本目の松明を捨てるのは、「故人が何事もなく極楽へ行けるように」という願いが込められています。

何も知らないと僧侶の動作を不思議に思うかもしれませんが、事前に知識を備えておけば下炬引導は亡くなった人が極楽へ行くための重要な儀式であることが理解できるでしょう。

祭壇へ投げる花・鳴り物

下炬引導の際、僧侶によっては松明ではなく花が使われることがあります。祭壇に花を投げた後に松明を用いたり、花と松明をそれぞれ1本ずつ使ったり、僧侶によってやり方が異なります。

また念仏一会の際に合いの手として、鉦(しょう)や木魚といった鳴り物を用いることも。鳴り物は緩やかなリズムで始まり、後半に入ると途切れることなく打ち鳴らすのが基本です。

浄土宗の葬儀マナーと作法

マナーや作法についても、他の仏教宗派と浄土宗で大きな違いはありません。しかし細かな点で異なることもあるので、基礎知識を身に付けておくと安心です。ここでは焼香や数珠、香典について解説します。

焼香の数に決まりがない

浄土宗の焼香に決められた回数はありません。その場の状況に合わせて1回〜3回が一般的です。まずは香炉の前で合掌と一礼をします。続いて中指と人差し指、親指で香をつまみ、上に向けます。片方の手を下に添えたらつまんだ香を額に寄せ、香炉の灰に入れてください。合掌と一礼を済ませたら、焼香の完了です。

線香に関しては、1本のみ立てる傾向にあります。地域の風習や僧侶の考え方により作法が違う場合もあるので、不安なときは事前に確認するのがおすすめです。

二連の数珠を使用する

浄土宗では、二連の数珠を用います。女性用は「六万浄土」、男性用は「三万浄土」と呼ばれる数珠をそれぞれ使用します。浄土宗用の数珠があればそれを使いますが、ない場合は他宗派の数珠でもマナー違反にはなりません。

数珠は、左の手首に二連ともかけるのが持ち方の作法です。合掌のときは、数珠の中で最も大きな珠(親珠)を親指と人差し指の間に二連とも挟みます。ちなみに、浄土宗では合掌の際に数珠を手のひらに挟んですり合わせる作法はありません。

香典の表書きは渡す相手やシーンによって変わる

香典の不祝儀袋の表書きには「御霊前」「御香典」などと記載します。法事のときは「御仏前」とするのが一般的です。故人が亡くなったことへの悲しみを表現するため、薄墨を使うのがマナーです。香典に関しては他の宗派とほぼ同じなので、違いに神経質になる必要はありません。以下の記事も参考にしながら基本のやり方を押さえ、当日に備えてください。

似て非なる浄土宗と浄土真宗。その成り立ちと相違点

名前が似ているため混同されがちですが、浄土宗と浄土真宗は異なるものです。ここでは浄土真宗の成り立ちと、それぞれの相違点を紹介します。

浄土真宗の開祖は親鸞聖人

浄土真宗は、法然上人の弟子・親鸞聖人(しんらんしょうにん)が1224年に開いた宗派です。弟子が異なる宗派を開くと師匠の教えを否定したように思えますが、そうではありません。親鸞聖人は最後まで法然上人への尊敬を貫きました。
ことの発端は、民衆の間で人気を集める浄土宗の影響力を恐れた朝廷や他の宗派が弾圧を始めたことにつながります。法然上人だけでなく弟子も流罪に処され、各地に散らばりました。
越後に流された親鸞聖人によって生まれたのが、「浮世から離れた存在ではなく、今を生きる人間に教えを授ける」という「非僧非俗(ひそうひぞく)」の考えです。あくまでも浄土宗の教えを基礎とし、そこに新たな「非僧非俗」の解釈を加えて誕生したのが浄土真宗です。異なる宗派ではありますが、ルーツは浄土宗にあると言えます。

浄土宗と浄土真宗の違い

浄土宗の開祖である法然上人の下で、浄土真宗を開いた親鸞聖人が修行をしていたこともあり、どちらも「南無阿弥陀仏」の念仏を大切にしているのは同じです。いずれも阿弥陀如来によって極楽に導かれる「他力(=阿弥陀さまの力)」本願が特徴です。一般用語として使う、いつでも他人を頼りにするハタ迷惑な他力本願とは違います。

ただし、浄土宗が念仏を唱えることに重きを置くことに対して、浄土真宗の親鸞聖人は専修念仏を徹底的に突き詰めた結果、阿弥陀如来を信じる心の重視にたどり着きました。結果、信徒が日ごろから読むお経にも少しだけ違いがあり、浄土宗では般若心経をたしなむこともありますが、浄土真宗では全く読みません。

このような違いの他に、仏壇の飾り方や掛け軸の内容にも異なる部分があります。浄土真宗の参列マナーを知りたかったのによく似た名前だから間違えたかもという人は、下の記事を参考にしてください。

浄土宗の葬儀でマナーや作法に困らないために

浄土宗は「南無阿弥陀仏」の念仏を日ごろから大切に唱えており、独自の葬儀の儀式や作法があります。あらかじめ作法やマナーを心得ておけば、浄土宗の教えに敬意を払いながら葬儀に参列できます。心を込めて故人を見送るため、基礎知識を身に付けておきたいですね。