能楽師・世阿弥とは?名言や著書『風姿花伝』『花鏡』を知る

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能楽師・世阿弥とは?名言や著書『風姿花伝』『花鏡』を知る

この記事はこんな方におすすめです

世阿弥とはどんな人物なのか知りたい
世阿弥の書物・名言を知りたい
世阿弥(ぜあみ)は、父の観阿弥(かんあみ)とともに余興として楽しまれていた猿楽(さるがく)を優美な舞台芸術である能として大成した人物です。その芸を後世に受け継ぐために書いた数々の書物には、現代人の心にも響く名言が散りばめられています。この記事では、世阿弥の人物像、代表的な書物、現代でも通じる名言、その生涯から見える死生観を紹介します。

能楽師・世阿弥とは能を大成した人物

世阿弥(ぜあみ)は能役者でありながら多数の演目を作り、今なお日本の演劇や芸能全般に強く影響を与えています。世阿弥の人物像やこれまで残る功績を紹介します。

霊が主人公の劇形式「夢幻能」を確立

世阿弥とは、室町時代に活躍した能楽師のひとりで、現代の能楽の礎を築いた人物です。人気役者であった観阿弥(かんあみ)を父に持ち、室町幕府3代将軍足利義満の庇護を受けて自身も役者としての才能を開花させます。
神様や鬼、幽霊など、霊的な存在を登場させることで、人間の心理を深く描き出す劇の形式「夢幻能(むげんのう)」を確立したことでも有名です。能は大きく2つの形式に分けられますが、もうひとつの「現在能(現在物)」では現実世界に生きる人だけが登場します。

現在、能楽はユネスコ無形文化遺産に認定された日本が誇る伝統芸能となっています。

『風姿花伝』をはじめ多くの書物を残す

世阿弥は、彼が完成させた「夢幻能」の教えを説いた『風姿花伝(花伝書)』をはじめ、数々の書物を書き残しています。日本最古の能楽論(演劇論)の他、芸位・芸風論、音曲論、演出論など、数多く論じてきました。彼の書物は、社会に対する鋭い洞察も込められていて、その言葉の数々は現代でも多くの人の心を打っています。

今でも読み継がれている世阿弥の書物

世阿弥は父・観阿弥の教えや自らの経験をもとにした能楽論をいくつか執筆しています。なかでも評価が高い『風姿花伝(ふうしかでん)』と『花鏡(かきょう)』の概要を紹介します。

役者の生涯にわたる心得を説く『風姿花伝』

『風姿花伝』は、世阿弥が30代後半から20年近くもの年月をかけて書き連ねたとされる芸の秘伝書です。略称『花伝』『花伝書』とも呼ばれています。父・観阿弥の教えを元に、能が表現する美を花に例えながら「人々を魅了する役者で居続けるための心得」を説いています。
『風姿花伝』は7巻の伝書からなり、それぞれの概要は下記の通りです。
  1. 第一「年来稽古条々(ねんらいけいこ じょうじょう)」:年齢に応じた稽古の心得
  2. 第二「物学条々(ものまね じょうじょう)」:物まねの要点を解説
  3. 第三「問答条々(もんどう じょうじょう)」:Q&A形式の演出論・演技論
  4. 第四「神儀(しんぎ)」:能楽の歴史や伝説
  5. 第五「奥義(おうぎ)」:他の猿楽との流儀の違いなど
  6. 第六「花修(かしゅう)」:演者・構成視点から見た実践術
  7. 第七「別紙口伝(べっしくでん)」:世阿弥の美学・哲学を説く
なかでも有名な「年来稽古条々」は、幼年期〜老年期まで人生を7段階に分け、年齢に応じた稽古の仕方や対処の仕方を論じた作品です。稽古を始める7歳ごろは自発性を重んじ、才能が開花し始める12歳ごろにはおごらず稽古に励むことの大切さ、その後の難関の乗り越え方まで説いています。親や教育者としての接し方、そして自らが年齢を重ねることにも言及し、その内容は世阿弥の人生論にまで発展します。現代においても自分の力を年に応じて発揮するヒントが得られる読み物として人気です。

能の理論書『花鏡』

『花鏡』は、世阿弥が20年にわたる実践から得た芸の秘伝書です。『風姿花伝』を発展させた芸術論の極致を記し、『風姿花伝』同様、高い評価を得ています。
発声方法や体の使い方などの演技論を中心に、芸位の追究や稽古の大切さを説くのが主な内容です。自分が舞う姿を客観視する「離見の見(りけんのけん)」、何もしない間を心でつなぐ「万能綰一心事(まんのうをいっしんにつなぐこと)」といった現代でも興味深い発想が垣間見れます。

「初心忘るべからず」から読み解く世阿弥の死生観

現代でも使われる「初心忘るべからず」は、世阿弥が遺した言葉のひとつ。本来の意味には人生のステップにおける心構えや、「老いる」ことへの向き合い方が隠されています。ここでは世阿弥が遺した言葉を元に、死生観を読み解きます。

「初心」とは未熟だったときの状態

「初心忘るべからず」とは、世阿弥が40代から老後(60代)に至る間に悟り得た芸術論である『花鏡』の中で記した言葉です。現代では「物事に慢心しないよう、初めの志を忘れてはいけない」と捉えられることが多いですが、本来の世阿弥の意図は少し異なります。世阿弥が述べる「初心」とは「自分が未熟だったときの状態」であり、歳を重ねるごとに変容します。それぞれの時期における「初心」のあり方を見ていきます。

人生における3つの「初心」

『花鏡』では成長に合わせ、下記の3つの「初心」について述べています。
①是非の初心忘るべからず。
未熟だったころに失敗や苦労をしながら身につけた芸が「是非の初心」。これは生涯忘れてはならず、今後の成長の判断基準とすることで芸の向上が目指せると説いています。
②時々の初心忘るべからず。
未熟なころだけでなく、年の盛りを経て老年に至るまで年齢に応じた「初心」があります。その1つ1つを身につけ、積み重ねていくことが大事です。
③老後の初心忘るべからず。
老年になっても初めておこなうことや試練はあります。「歳をとったからもう良い」と思うのではなく、向上心を失わずその都度乗り越えていこうとするのが「老後の初心」です。

世阿弥の言葉から見えてくる死生観

世阿弥の3つの「初心」から見えてくるのは、人生のさまざまなステージで未経験のことに立ち向かっていかなければならない瞬間があるということ。「老いる」ということも誰しも未経験のことであり、それ自体も「初心」です。老年においても「やり遂げた」と思うのではなく、未熟だったころの自分を思い出し、「これから何ができるか」を考えていく姿勢を大切にしていきたいものですね。
また別に、「命には終りあり 能には果てあるべからず」という言葉も残しています。これは「人の命には終りがあるが、能には限界がない」という意味で、最期まで芸の向上に努めることの大切さを説いています。「老いる」ことに不安や恐れを抱くのではなく、人生にはまだ新たなチャレンジがあると捉えて楽しんでみてはいかがでしょうか。
一般的な死生観についてはこちらの記事で紹介しています。

現代社会にも通じる世阿弥が遺した名言

最後に、現代を生きるヒントにもなる世阿弥の名言を5つ紹介します。今の自分に合う言葉を探してみてください。

秘すれば花なり。秘せずば花なるべからず

芸を披露するのはタイミングも大事で、いたずらに使わず寝かしておくことも大事だとするのが「秘すれば花なり。秘せずば花なるべからず」という言葉です。花は世阿弥が生涯かけて追及した魅力の象徴。なんでもすぐに表現してしまう現代において、秘めたる花を用意しておけば、ここぞというときに人を惹き付ける武器となるかもしれません。

(『風姿花伝』 第七 別紙口伝より)

離見の見(りけんのけん)

「離見の見」は、客席から見ているように、舞台に立つ自分の姿を前後左右から見なければいけないという演者の心得を表した言葉です。本来自分で自分の姿を見ることはできませんが、客観的に自分がどう見えているか意識する努力は大事です。俯瞰して全体を見るスキルは、演技に限らずどんな場面でも役立つでしょう。

(『花鏡』より)

上手は下手の手本 下手は上手の手本

下手な人が上手な人のやり方を手本にするのは当然のこと。しかし上手な人も下手な人の得意技から学べることがあると世阿弥は教えてくれています。世阿弥の言う通り、下手な人のやり方を真似ないのは慢心ゆえの頑固さかもしれません。こちらも社会や仕事で活かせる名言です。
(『風姿花伝』 第三 問答条々より)

稽古は強かれ、情識はなかれ

「情識」には傲慢や慢心といった意味があり、稽古は徹底してしっかりおこなうべきで、決して傲慢になってはいけないと世阿弥は述べています。世阿弥の考えによると、芸能の魅力は一時的な肉体の若さではなく、一生をかけて完成するもの。常に謙虚な気持ちで、さらなる高みを目指して稽古していくことが大切です。
(『風姿花伝』 序より)

よき劫(こう)の住して、悪(わる)き劫になる所を用心すべし

「劫(こう)」は「功績」のことで、「良いとされてきたことに安住していると、いつしか反対に悪い結果を招いてしまうので用心すべき」と世阿弥は忠告しています。居心地が良いからと留まっている間に、社会は日々変化しています。変化を恐れず、ときには「安住しない」ことも必要かもしれません。
(『花鏡』より)
世阿弥以外の偉人が最後に遺した名言については、こちらの記事で紹介しています。

世阿弥の言葉から人生の教訓をつかもう

脚本、演出、主演、監督……、すべてを一人でこなし室町時代のスーパースターともいえる世阿弥。彼が遺した数々の言葉は、現代社会を生きる上での教訓になるとして令和になった今でも注目を浴びています。彼の演劇論には、今後の人生を考えるきっかけもたくさん詰まっています。是非一度、演劇や書籍に触れてみてください。

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