死後の世界は終活に役立つ?法要を理解する手助けにも

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死後の世界は終活に役立つ?法要を理解する手助けにも
人は亡くなったらどうなるか、正解を知っている人はいません。ただ死後の世界があるかもしれないというのは、漫画やドラマ、小説などでよく見かけます。実は、仏式葬儀や法要にもゆかりの深いものです。今回は日本人になじみのある、仏教の死後の世界にズームインします。

仏教における死後の世界について

人は死んだらどうなるか、誰もが気になるところです。とはいえ、死後の世界があるのかないのか、同じ仏教徒の中でも、お国柄や宗派で意見が分かれています。まず、日本の仏教における「死後の世界」観をみていきます。

死後の世界とは

死後の世界については、日本発といわれるお経「仏説地蔵菩薩発心因縁十王経」(通称:地蔵十王経)や「往生要集」に記載されています。輪廻転生を信じるインドの仏教では、人は死後すぐに生まれ変わるので霊魂や“死後の世界”という概念はあまり一般的でありません。仏教が中国を経由して日本に伝わる際に、道教思想(どうきょうしそう)が影響して、十王経などが作られたといわれています。十王経とは、閻魔大王など10人の王が登場し、死者の審判が行われる物語です。

死後の行き先

死後の世界には、「地獄」から「天」まで6つの行き先(=六道)があり、死ぬ度に六道のどこかで何かに生まれ変わります。極楽浄土とは、悟りを開いた仏様の住む世界です。極楽に行くことは、この六道の生まれ変わりのサイクル(=六道輪廻)から抜け出し、一切の苦しみから抜け出す(=解脱)ことを意味します。

人は亡くなってから49日間、現世から冥途(あの世)へ向かう旅に出ます。そして、冥土の入り口で、現世のおこないを審判にかけられます。無垢の善人は仏となり極楽へ上がり、少しでも悪いことをした人は地獄へ落ちます。

遺族はこの期間に、故人の霊が無事に冥土へ着き、それも極楽に行けるようにと願います。これが四十九日の法要です。もしも、地獄に落ちたとしても何度か審判がおこなわれ、再び極楽に行くチャンスが巡ってきます。そのたびに法要をおこなって導師や家族が供養をし、極楽行きを後押しします。極楽への旅は家族総力戦なのです。

死後の行き先が極楽と決まっている宗派がある

前述の通り、同じ仏教でも宗派によって死後の世界への考え方が異なります。亡くなった後は極楽に行くことが約束されている宗派もあります。

浄土真宗では、この世との縁が切れたら即座に極楽浄土へ行けるとされています。浄土宗でも、阿弥陀仏が死者を導いて一瞬で極楽浄土に行けます。そのため、お盆に先祖の霊が戻ってくることもありません。

死後の世界①冥途の旅編

冥土に向かう旅にはどのような行程があるのでしょうか。そこには、昔話のような壮大な世界が待っています。

死出の山

人は、亡くなってすぐの通夜から6日目までの間に「死出の山」に登ります。死出の山は辺りが真っ暗闇で、とても長く険しい道のりです。登っている最中は、家族などの近しい人たちのお経(声援)が聞こえてきます。

家族らの声を聞きながらひたすら暗い山道を登ると、やがて峠を越えます。すると辺りもだんだんと明るくなり、山の麓には美しい花畑が広がります。

賽(さい)の河原と三途の川

死出の山を越え、花畑を抜けると、次に見えるのは「賽(さい)の河原」です。賽の河原では、親より先に亡くなってしまった子どもたちが親不孝という罪を償うために石を積み続けています。

賽の河原の先にあるのが「三途の川」です。三途の川はとても川幅が広く、渡り方は生前のおこないで決まります。善人は橋を渡り、罪の軽い者は浅瀬の山水頼(さんすいせ)を、極悪人は激流の江深淵(こうしんえん)を渡ります。六文銭を渡して渡し船で渡るとされる場合もあります。

三途の川を渡りきると、奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんえおう)という老夫婦が待ち構えていて、死者の衣服をはぎ取っていきます。その衣服の濡れ具合と重さで、罪の重さが量られます。

十王審査

三途の川を渡った死後7日目に、いよいよ十王の審査が始まります。十王とは、秦広王(しんこうおう)、初江王(しょこうおう)、宋帝王(そうたいおう)、五官王(ごかんおう)、閻魔大王(えんまだいおう)、変成王(へんじょうおう)、泰山王(たいざんおう)、平等王(びょうどうおう)、都市王(としおう)、五道転輪王(ごどうてんりんおう)の10人の王です。

十王審査では、死後7日目、14日目、21日目、35日目に、それぞれ、盗み、殺生、不貞、嘘について聞き取りがおこなわれます。その際、正直に答えないと罪がどんどん重くなります。ちなみに閻魔大王は35日目に現れます。

そして49日目に、6つの世界「六道」の中から、あるいは極楽浄土へと亡くなった人の行き先が決まるのです。

ただし、上記のルートには諸説あります。いろいろな名所に記載があったり、書籍がでたりしているので確かめてみましょう。

死後の世界②地獄&極楽編

死後に行くといわれる地獄と極楽についても、詳しく見ていきます。

地獄には「八熱地獄」と「八寒地獄」がある

地獄には「八熱地獄」と「八寒地獄」があります。故人はそれぞれ犯した罪に見合った地獄に落ちて、責め苦を受けることに。

まず八熱地獄には、8段階の熱さがあります。等活(とうかつ)地獄、黒縄(こくじょう)地獄、衆合(しゅうごう)地獄、叫喚(きょうかん)地獄、大叫喚(だいきょうかん)地獄、焦熱(しょうねつ)地獄、大焦熱(だいしょうねつ)地獄、阿鼻叫喚(あびきょうかん)地獄です。殺生をした人が落ちる等活地獄が最も軽く、父母や僧侶を殺害した人が落ちる阿鼻叫喚地獄が最も苦しい場所であるようです。

八寒地獄も8つに分かれています。頞部陀(あぶだ)地獄、刺部陀(にらぶた)地獄、頞听陀(あただ)地獄、臛臛婆(かかば)地獄、虎々婆(ここば)地獄、嗢鉢羅(うばら)地獄、鉢特摩(はどま)地獄、摩訶鉢特摩(まかはどま)地獄です。八熱地獄の傍にあり、氷の地獄とされています。

極楽は全ての欲が満たされる

極楽浄土は、生きている間に悪いことをしなかった「善人」が仏となって、たどりつく場所です。極楽では豪華な御殿に住むことができ、毎日美味しい食べ物を食べて、幸せに暮らせます。気候も安定していて、とても住み心地が良いところなのだそうです。極楽には、いっさいの苦がないのです。

ここには仏の最高位である「如来」が住み、すべての人が憧れる最終目的地です。如来以外にも、「菩薩」や「明王」など、仏様のオールスターが住んでいます。

死後の世界の描写は刺激が強く、書画や器など、多くの美術品になっています。小説や映画の物語に使われるのも想像力を掻き立てるパワーがあるからかもしれません。

追善供養(ついぜんくよう)が罪を軽くする

追善供養とは、家族や友人など生きている人が読経や手合わせなどをして、故人のあの世での幸せを願い拝むことです。死後の世界をさまよう故人の罪を軽くする上、遺族自身の善行にもなります。追善供養を目的としておこなわれる「法要」と、死後の世界との関係について紹介します。

忌日(きにち・きじつ)法要

忌日(きにち・きじつ)法要とは、死後7日ごとにおこなう供養のこと。故人が十王による審査を受ける際に、極楽に行けるようにと拝みます。

ただし、最近では親族が頻繁に集まれない事情もあり、死後7日目におこなう初七日と、49日目の四十九日(七七日・ななぬか)だけにする人も増えています。

次の法要は、百箇日法要(ひゃっかにちほうよう)と言い、死後100日目におこなわれます。これは四十九日の十王による審判によって、思いもよらない世界に行ってしまった故人に対する救済措置です。

死後100日には平等王による再審がおこなわれ極楽へ行くチャンスを与えられます。

年忌(ねんき)法要

忌日法要の後は、年忌(ねんき)法要があります。年忌法要には、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌、十七回忌、二十三回忌、二十七回忌、三十三回忌、五十回忌、百回忌、百五十回遠忌があります。

このうち一周忌と三回忌については、死後100日目と同じく十王審査があります。死後2年目の一周忌には都市王が、3年目の三回忌には五道転輪王が現れて、故人を再審査します。このときにも、家族の供養は有効です。

死後の世界は法要理解と終活に役立つ

生前の罪をなかったことにはできません。しかし、救いの道はどこかに残されている、それも家族で応援できるというのはいかにも日本人らしい発想です。死後の世界の物語は、法要の大切さについて家族で話し合ういいきっかけになりそうです。

また、死後の世界は多くの美術品のモチーフにもなっています。これらを学んだり見にいくのも終活の一環になるかもしれませんね。