回向とは念仏の功徳を回し向けること。故人の冥福を祈る

法事・お墓
回向とは念仏の功徳を回し向けること。故人の冥福を祈る
回向(えこう)とは、読経などを通して得た功徳(ご利益)を他の人に分け与えて、共に悟りをえたり、極楽に行けるようにしたりすることです。そのための法要のことも回向と言い、「大切な人が亡くなった後も、心安らかにいてほしい」という思いを込めておこないます。本記事では、回向の意味や供養との違い、回向がおこなわれる場面、一般的な法要などを解説します。

故人の冥福を祈る回向

亡くなった人が無事に仏の元(極楽浄土)へ行くためにおこなう、回向。法要などを通して功徳を得ることで、故人の冥福につながると言われています。ここでは、回向や功徳、供養との違いについて紹介するので、大切な人の安らかな旅立ちに役立ててください。

回向とは功徳を回し向けること

回向は、お経を読んだり、仏の名を唱えたりして得た功徳を亡くなった人へ回し向けることです。もともとは、自分が得たご利益を他者に与える、という意味があります。
転じて、仏事法要を営むことも回向と言われています。これは追善回向(ついぜんえこう)や、追善供養とも言い、自分の得た功徳を故人に分け与えて「亡くなった人が少しでも早く仏の世界に到着するように」と願うことです。あの世へと旅立った大切な人を思い浮かべ、心を込めてお経や仏の名を唱える善いおこないとされています。

回向と功徳

功徳の徳とは立派なおこないのことです。
徳を高めるという言葉があるように、日本では善いおこないをすれば、その分だけ良い結末が迎えられる、人格が高まると昔から信じられています。善いおこないの成果として幸福が訪れたり、恵みを得たりできるという考えです。
功徳には2つの意味があります。ひとつは善いおこないそのもの、もうひとつは善いおこないの結果として神仏から授かる恵みやご利益です。自分が得た功徳を亡くなった人や祖先に分け与えることを、回向と言います。

回向と供養の違い

一般的に供養とは、故人や先祖のあの世での幸せを願って法事をすることや、仏や死者にお供物をすることで、仏教では「徳」に当たる行為です。
供養を通して得た徳を故人や先祖へ振り向けるのが、回向です。残された家族が徳を高めることで、あの世へ旅立った故人が仏の世界に着けると考えられています。
ただし、仏事法要のように同じ意味を持つ場合もあります。2つの言葉に対する考えはお寺や宗派によって異なるので、状況に合わせて使い分けてください。

回向がおこなわれる場面

命日やお墓参りなど、さまざまな場面でおこなわれる回向。宗派によって異なることはありますが、ここでは回向のタイミングや供養の種類について紹介します。いつ回向すればいいのか確認してみてください。

回向のタイミング

基本の回向(供養)のタイミングは、故人の命日です。365日毎日1回、月命日に毎月1回、祥月命日に毎年1回、手をあわせたり、読経をしたりします。命日が故人の死去した「日」とするならば、祥月は「月」、祥月命日は「月日」を指します。なお、お寺で回向していただける位牌に、日牌(にっぱい)、月牌(がっぱい)、年牌(ねんぱい)というものがあります。

納牌・ 納仏供養

納牌(のうはい)・ 納仏(のうぶつ)供養は、位牌や仏像をお焚き上げする際におこなわれます。お焚き上げは、浄焚供養(じょうぼんくよう)や浄焚式とも呼ばれ「受け継ぐ人がいない」「古くなった」「三十三回忌に回出位牌(くりだしいはい)を作る」など、いろいろな理由で位牌を処分する場合に必要な儀式です。

春彼岸・秋彼岸

昔から日本人は、季節ごとに今生やご先祖様に感謝をして、仏教の教えに心を寄せる時間を作っていたと言われています。その中のひとつに春彼岸、秋彼岸があります。この日にはお墓参りにあわせて墓前での読経「墓回向」をします。春分の日を中心にした7日間を春彼岸と言います。また、秋分の日を中心にした7日間が秋彼岸です。春彼岸は牡丹餅、秋彼岸は御萩をお供えする習慣があります。

法要

地方によって違いはありますが、一般的な法要の日は以下の通りです。
  • 初七日:死去した日から7日目の法要
  • 四十九日:死去した日から49日目の法要
  • 百箇日:死去した日から100日目の法要(大切な人を失った悲しみを癒し、立ち直るためにおこなう)
  • 一周忌:死去した日から1年目の法要(命日より前におこなう)
  • 三回忌:死去した翌々年、満2年目におこなう法要
昔は、四十九日までの7日ごとに法要をおこなうのが習わしでしたが、現在は初七日と四十九日のみおこなうことがほとんどです。また、関西エリアなど死去した日の前日から法要の日数を数える地域もあります。

なお、法要と回向は別物と考えるお寺も存在します。

【宗派別】回向文(えこうもん)

法要では、読経や念仏の後などに回向文を読むことで、経典(お経)から授かった徳を亡くなった人へ分け与えます。宗派にもよりますが、一般信者は訓読み、僧侶は漢文のまま読み上げることが多いです。ここでは、宗派別の回向文の一例を紹介します。

天台宗・真言宗

天台宗や真言宗においては、以下のような文が読まれます。
「願わくは この功徳を以って普く(あまねく)一切に及ぼし 我等と衆生(しょうじょう)と皆ともに仏道を成ぜん」
かなり意訳すると、自分の功徳がすべての生き物に届いて、みんなで悟りが開けますようにと読めます。もちろん、上記とは異なる回向文を読み上げる宗派もあります。

浄土宗・浄土真宗

浄土宗や浄土真宗には複数の回向文があり、以下の文が多く使われています。
「願はくは この功徳を以って 平等に一切に施し 同じく菩提心をおこして安楽国に往生せん」
他には、以下のような文も用いられることがあります。
「世尊(せそん) 我一心に 尽十方無碍光如来(じんじっぽうむげこうにょらい)に帰命(きみょう)して 安楽国に生まれんと願ず」
世尊は釈迦、尽十方無碍光如来は阿弥陀如来を指します。
どちらも大意は、仏を求め(あるいはすがって)極楽浄土に生まれたいというような内容です。

曹洞宗・臨済宗

禅宗の流れを汲む臨済宗と曹洞宗は、ほとんど同じ回向文を用います。最初の言葉は天台宗や真言宗と同様で、最後に略三法へ移るのが基本。略三法は、仏教で信じられる3つの宝(仏・僧・法)に謝意を示し、与えられた徳をさまざまな方向へと向けることを表します。回向文で用いる主な略三法は、以下の通りです。
「十方三世一切仏(じほうさんしいしふ) 諸尊菩薩摩訶薩(しそんぶさもこさ) 摩訶般若波羅蜜(もこほじゃほろみ)」

日蓮宗

日蓮宗における回向文は他宗派と比較しても長文で、ここでは紹介しきれません。読み上げる途中には、故人の戒名や法要を営む家の名前を読むことがあります。

回向料の相場と渡し方

亡くなった人の成仏を祈る法要では、お世話になった僧侶へのお礼として回向料を渡します。最後に、回向料について紹介するので、法要の準備に役立ててください。なお、ここでは説明をわかりやすくするために回向料と明記しています。

回向料とお布施との違い

回向料とは、読経によって僧侶が得た徳を亡くなった人へ分け与えたことに対するお礼。一方で、お布施は「施す」という言葉に由来し、僧侶に着物などを渡したことが語源と言われています。
厳密には、回向料とお布施は異なる意味を持ちます。しかし、現在は回向料ではなくお布施と表記するのが一般的になりました。

回向料の相場

回向料は、僧侶へお礼の気持ちを表すものです。予め金額を設定しているお寺もありますが、価格は定められていないことの方が多いです。地域の風習や法要の内容等々によるので、総合的に考えて検討してください。
以下は、代表的な回向料の相場です。戒名の金額は含みません。
通夜〜葬儀・告別式 15万~50万円
四十九日

3万円~5万円(一緒におこなうときは5〜10万円)
納骨
初盆 3万円~5万円
初盆後のお盆 5,000円~2万円
年忌法要 3万円~5万円

回向料の表書き

回向料を用意する場合の記載事項は、以下の通りです。
表書き 【上段】御布施、または、御回向料
【下段】個人の名前か「□□家」
裏書き 金額
※中袋を封入する多当折り式の場合 【中袋の表】金額
【中袋の裏】住所と名前
ちなみに、回向料は謝意を示すために渡すので、薄墨ではなく濃墨(こずみ)を用いて記載します。

回向料の渡し方

回向料を直接手で渡すのは、マナー違反。乗せるものを準備し、僧侶に対して失礼のない乗せ方・渡すタイミングを意識することが大切です。基本の渡し方を確認した上で、準備を整えてください。
乗せるもの 小さなお盆 お盆がないときはふくさで包み、渡す直前にふくさに乗せる
乗せ方 僧侶の正面に表書きがくるように乗せる 御車代(交通費)や御膳料(食事代)を一緒に渡す場合は、1番上に回向料を乗せる
渡すタイミング 【基本】事前の挨拶で渡す
【後に食事会がある場合】食事会の後に渡す
より丁寧に対応したいときは、事前にお寺を訪れて渡す

故人の冥福を祈り回向をささげよう

仏壇へのお参りや法要など、仏事で得た功徳を故人に分け与えることを意味する、回向。宗派によって回向文などが異なる場合もありますが、功徳を分かち合うという意味は同じです。故人への想いを形にできる追善供養と回向の機会は大切にしたいですね。

この記事の監修者

政田礼美 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユ初の女性葬祭ディレクター。葬儀スタッフ歴は10年以上。オンライン葬儀相談セミナーなどを担当。