「亡き母を悲しませるようなことはすまいと誓った」テリー伊藤さん 【インタビュー前編】~日々摘花 第2回~

コラム
「亡き母を悲しませるようなことはすまいと誓った」テリー伊藤さん 【インタビュー前編】~日々摘花 第2回~
人は必ず、大切な人との別れを経験します。その深い悲しみと、そこから生まれる優しさを胸に、“今日という日の花を摘む”ように、毎日を大切に生きてゆく……。「日々摘花(ひびてきか)」は、そんな自らの体験を、様々な分野の第一線で活躍する方々に共有していただく特別インタビュー企画です。

第2回のゲストは、演出家のテリー伊藤さん。本編は、前・後編の2回に渡ってお送りする、前編です。
近年は情報番組のコメンテーターとしても活躍し、切れ味鋭い発言が印象的なテリーさん。テレビ界で確固たるポジションを築いた現在からは想像できませんが、将来が見えず、自暴自棄になった若き日もあったと言います。前編では、そんなテリーさんを見守り続けたお母様との思い出と、別れについてお話いただきました。

「何をやってもいいじゃないの」。母の言葉に励まされ、テレビ業界に入った

ーーテリーさんにとって、これまでで最も深く心に刻まれている「永遠の別れ」についてお話を聞かせてください。

テリーさん:おふくろ、ですね。亡くなるまでずっと、「お母さん」と呼んでましたけど…。

ーーどんなお母様でしたか?

テリーさん:働き者で、おふくろが寝ている姿を見たことがありません。おやじを支え、家業である築地の卵焼き屋を切り盛りしていました。4男1女を育て、教育には熱心でしたね。裕福な家庭ではありませんでしたが、家庭教師を雇い、全員大学に行かせてくれました。おふくろは家庭の事情で高等教育を受けられず、学びたくても学べないという経験をしていたので、子どもたちに同じ思いはさせたくなかったようです。

堅実な人でね。店が兄貴に代替わりして、おふくろにもようやく時間の余裕ができたという時期のこと。お店でもらえるポイントカードのはんこや、クーポンをコツコツ集めているんですよ。集めた末にもらえるのは、景品は小さな化粧品ポーチだったりして、「買った方がいいじゃない」と笑っちゃったんですけど、ささやかな楽しみだったんでしょうね。

一方、おやじは情に厚くて、楽しく、誰とでも仲良くなれる人でしたが、適当なところがあって、商売は苦手。兄弟から「輝夫はお父さんそっくり。お母さんには何ひとつ似ていないね」とよく言われますが、まさにその通りです。おふくろは「あなたは、ほかの子どもたちより私と一緒にいる時間が短いから」と言って末っ子の僕をとても可愛がってくれましたが、僕は出来が悪く、親には心配をかけてばかりでした。

ーーそうだったんですね。

テリーさん:いや、もうね、大学生になっても、毎日を楽しく過ごすことしか考えていなくて。気がついたら、就職活動の時期が終わっていて、大学を卒業しても行く場所がありませんでした。見かねたおやじに「寿司職人になれ」と言われ、寿司屋で修業をしたものの、不器用で使い物にならず、挫折。職を転々とし、自己嫌悪に陥っていたのですが、ある日、おふくろが「何をやってもいいじゃないの。人に迷惑をかけるようなことをしなければ」と言ったんです。その言葉に励まされ、やりたいことを思い切ってやってみようとテレビ業界に入ったんですよ。

赤とんぼを見ると、おやじのことを思い出す

ーーテレビ番組の演出の仕事をしたいと考えたのはなぜだったのでしょうか。

テリーさん:大学を卒業するときに、自分が何をやりたいのかと考えても思いつかなくて、まずはそれまでの経験の中で、楽しかったことを書き出してみたんです。そのときに真っ先に思い浮かんだのが、大学時代に主催したコンサートでした。自分たちで企画をして学生たちを集め、演出や司会を担当して、すごく面白かったなと思って。それで、子どものころから大好きだったテレビの演出家を目指そうと考えました。

コンサートを主催したのは大学1年生のときです。大学に入った年に学生運動で事故にあい、左目の視力を失って、斜視になりました。「この先、自分はどうなるんだろう」と落ち込み、自暴自棄になって、おふくろに当たり散らしたこともあります。でも、あるとき、そんな自分がかっこ悪いなと気づきました。世をすね、いじけた人生を送るのはイヤだなと思い、明るく生きてやろうと決めて、その第一歩としてやったのがこのコンサートでした。

当日は、おふくろも会場に来たんですよ。よそ行きの服で。兄たちからは「お前は何をやってもダメだ」と言われていた自分がやったことを、いつも作業着姿のおふくろが、わざわざ着替えて見に来てくれた。それは、僕にとって驚きでした。うれしかったですね。

ーーお母様はテリーさんのことを、ずっと見守っていらしゃったんですね。

テリーさん:おやじが亡くなった時にも、「あんたが作ったトレーナー、棺に入れなさいよ」とおふくろが言ってくれたのを覚えています。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(1985年〜1996年)をやっているときに、『元気が出るハウス』というタレントショップをオープンして、ビートたけしさんをモチーフにしたトレーナーを僕がデザインしたりして、人気だったんですよ。取り立ててその話をおふくろにしていたわけではないんですけどね。

そう言えば、おやじが亡くなった日を境に、おふくろがコロリと変わったんです。それまでおふくろは、おやじの愚痴ばかり言っていたんですよ。「うちのお父さんは働かなくて」って。ところが、急に態度が変わりましてね。

おやじは秋に亡くなったんですが、葬儀から間もないころにうちに赤とんぼが飛んで来たんですね。すると、おふくろが「あ、お父さんだ」と言って、話しかけていたんですよ。おふくろがそんなことを言うんだ、とすごく驚きました。だから、赤とんぼを見ると、おやじのことを思い出します。

ずっと一緒にいたくて、母の遺骨の一部をこっそり持ち帰った

ーーお母様が他界されたのはいつごろでしたか?

テリーさん:20年ほど前です。築地本願寺でお通夜と葬儀をやったんですが、お通夜の後に亡くなった人を遺族がひと晩中見守る「夜伽(よとぎ)」ってあるでしょう? 自宅でのお通夜じゃないから、それができなくて、本願寺におふくろを残して、僕たちは21時ごろに自宅に戻ったんですね。でも、僕、夜中に忍び込んだんですよ。

ーーなんと!

テリーさん:なんか、おふくろの髪の毛を形見にほしいなと思って。兄弟に「取ってきていいかなあ?」って言って出かけました。それで、布団に寝かされたおふくろに添い寝したんですよ。そうしたら、わかったことがあったの。

さっき、僕はおふくろに似ていないと話したでしょう? ところが、違ったんですよ。おふくろの手を握って、眺めたら、爪の形が全部一緒だったんです。おふくろの爪の形なんて、普段は見ないじゃないですか。ましてや、おふくろの手なんてずっと握ってなかった。だから、亡くなって初めてわかったんですよ。「あ、俺と同じ爪の形をしてるんだ」って。

あとね、白状すると、火葬場で遺骨を盗みました。骨壺に全部入れてしまうのは、もったいないなと思って。で、持ち帰って、食べました。何か、おふくろとずっと一緒にいたくて。

遺骨と言っても、指先くらいの大きさの骨のかけらですよ。それを口に入れて、何気なく噛んだら、ガチンとなって、「あ、おふくろの骨を噛むというのも失礼かな」と思ってね。少し砕いて、飲み込みました。喉にひっかりました。

そのときに、これからの人生、おふくろを悲しませるようなことはすまいと誓ったんですよ。おふくろとは、僕が死んだら、きっとまた会うじゃないですか。そのときに、顔向けできないようなことはすまいと。まあ、かみさんに隠れてデートをしたり、適当なことはしていますけどね。その点はきっと、目をつぶってくれるだろうと期待しています(笑)。

〜EPISODE:さいごの晩餐〜

「最後の食事」には何を食べたいですか?
景色のいいところで食べたいですね。湘南がいいかな。好きなんですよ、湘南。食べるものは何でもいいです。目の前に海が広がっていて、気持ちのいい風が吹いていたら、おにぎりでも十分じゃない? ただ、ひとりで食べたいですね。誰かいると、何だか、湿っぽくなっちゃいそうですから。

テリーさんの湘南お気に入りスポット

湘南をこよなく愛し、鎌倉市に自宅もあるテリーさんのお気に入りスポットは神奈川県横浜市・佐島マリーナ内にある「ベイサイドレストランカフェ モア」。ガラス張りの店内から相模湾が一望でき、佐島港で水揚げされたばかりの魚介や三浦野菜など新鮮な素材を使った料理を楽しめる。

ベイサイドレストランカフェ モア

SHOP PROFILE
ADDRESS:横須賀市佐島3-7-4
ACCESS:JR逗子駅から路線バス「佐島マリーナ入口」下車
TEL:046-856-0141
URL:http://sajimamarina-hotel.com/modules/rest/index.php?content_id=1

・プロフィール

演出家・テリー伊藤さん

【誕生日】1947年12月27日
【経歴】東京都・築地で生まれ育つ。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」などのテレビ番組の企画・総合演出を担当し、注目を集める。現在は演出業のほか、プロデューサー、タレントとしてマルチに活躍している。
【趣味】自他ともに認める「車好き」。YouTube公式チャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』  では、車両本体価格30万円の魅力的な中古車を求めて全国をめぐる「30万円車探しの旅」など車に関する企画も多い。
【そのほか】2017年9月より慶應義塾大学院政策・メディア研究科在籍。心理学を学んでいる。

・Information

著書も多いテリー伊藤さん。2020年7月17日に発売された書籍「老後論 この期に及んでまだ幸せになりたいか」(竹書房)では、「男は『乙女力』の花を咲かせよ」「リタイア後に人生をリセットするな」など独自の視点で老後の生き方について語られている。歳を重ねるのが楽しくなる一冊。
(取材・文/泉 彩子  写真/刑部 友康)