「作品を作る、残すということが僕の使命」 演出家・映画監督 平川雄一朗さん 【インタビュー後編】~日々摘花 第6回~

コラム
「作品を作る、残すということが僕の使命」 演出家・映画監督 平川雄一朗さん 【インタビュー後編】~日々摘花 第6回~
「日々摘花(ひびてきか)」は、様々な分野の第一線で活躍する方々に、大切な人との別れやその後の日々について、自らの体験に基づいたヒントをいただく特別インタビュー企画です。

本編は、第6回のゲスト、平川雄一朗さんの後編です。
前編ではお父様との別れと、別れを経てお感じになっている絆についてお話しいただきました。後編では、演出家や映画監督として「死」や「別れ」を描いた作品についてのお話や、ご自身の死生観についてうかがいます。

「死」や「別れ」を描く作品も、見終わった時にどこかに希望を感じられるものにしたい

『約束のネバーランド』1~3巻 白井カイウ・出水ぽすか(集英社)
©白井カイウ・出水ぽすか/集英社
ーー監督をされた映画『約束のネバーランド』は、人気コミックの実写版で、鬼に食べられるために生まれてきた子どもたちの物語。残酷な死も描かれています。原作を読まれた時、どうお感じになりましたか?

平川さん:作品で命を食べるのは鬼ですが、人間の残酷性をよく描いているなと思いました。食物連鎖じゃないですけど、自然界にある命はすべてつながっていて、人間が当たり前のように食べているものにも命がある。その残酷性を意識せず、「食べて当たり前」というのは、人間のおごりかもしれないなと。身につまされる思いがありましたね。

この重いテーマを「エンターテインメント」として成り立たせているのも、原作の素晴らしいところ。原作の世界観を大切にしつつ、そのすごさを映像でいかに広げられるか。監督としてチャレンジ精神を掻き立てられたのはそこでした。

ーーこれまで演出された作品には、登場人物の死別を描いたものも多いですね。作品で「死」を描くときに気をつけていることはありますか?

平川さん:「死」や「別れ」そのものは残酷だったり、悲しいものだったりですが、作品を見終わった時にどこかに希望を感じられるものにしたい、という思いはあります。僕自身、そういう作品を見て育ってきたし、映像制作の道に進むきっかけになった映画『スタンド・バイ・ミー』もそんな作品でした。まあ、きれいごとに過ぎないかもしれないんですけどね(笑)。でも、きれいなところは残してあげたいな、と思って作品を作っています。

ーー2020年1月に公開された映画『記憶屋 あなたを忘れない』も、そんな作品だと感じました。ある登場人物が余命わずかという時に、大切な人の記憶から自分を消すかどうか選択する場面がとても印象的でした。

平川さん:あの設定は、原作にはないんです。『記憶屋 あなたを忘れない』は共同で脚本も担当したので、ほかの「原作もの」に比べて僕自身の思いに寄せているところがあります。自分が大切な人を残してこの世を去る時、その大切な人にとって、自分の記憶が残ることは幸せなのか。そこに「正しい答え」はないと思うんですよね。

突然「余命1年」と宣告されたとしても、そんなに困らないかもしれない

ーー平川さんご自身なら、どんな選択をされますか?

平川さん: 若いころはどうだったかわかりませんが、今の時点では、相手から自分の記憶を消したいという感情にはならないです。むしろ最近は、自分の「遺伝子」みたいなものを残したいし、残ればいいなと強く思うようになりました。

ーー遺伝子、ですか。

平川さん:肉体的なものではなく、精神的な「遺伝子」です。そう考えるようになったのは、若手と仕事をすることが増えてきた影響でしょうね。僕にも先輩がいて、彼らから多くを学んできました。先輩からもらったものを次の代に受け継いでいくために、僕という人間が考えてきたことを伝えたいし、残したいし、残ればいいなと。

ここ数年、そんな思いを持って仕事をしてきたので、突然「余命1年」と宣告されたとしても、そんなに困らないかもしれないです。もちろん、やりたいことはまだまだありますが、悔いがありません。作品を作る、残すということが僕の使命だと思ってこの仕事をやらせてもらっていて、やりたいことがやれている。ありがたいことだなと感じています。

親族の葬儀やお墓のことを通して、亡くなった家族とのつながりを強く感じるように

ーーご自身の最期について、イメージされたことはありますか?

平川さん:じっくりと考えたことはありませんが、妻とのふだんの会話の中で、何となく葬儀についての話をしたりはします。妻は身内だけで静かに見送ってほしいようです。僕自身はこだわりがなくて、極端な話、「孤独死」しても別にいいかなとさえ思っていたのですが、考えがちょっと変わってきました。

ーー何かきっかけが?

平川さん:数年前にいとこが亡くなり、縁あって僕が喪主を務めたんですね。亡くなる1年前、いとこから「余命宣告を受けた」と告白があり、いとこ自身は「葬儀は要らない」と希望していました。最近は火葬のみを行う「直葬」も増えているそうですね。

でも、いざ亡くなると、いとこに友人がたくさんいることもわかり、お別れの場がないのはさみしいなと。やはり葬儀をやることにし、やってよかったと感じました。それ以来、葬儀というのは「本人が必要性を感じていないから、やらなくていい」というものではないのかもしれないな、と考えるようになりました。

お墓や先祖についても、以前はまったく気にしていなかったのですが、父の他界をきっかけに関心を持つようになりました。粗末になっていたお墓があることがわかって、きれいにして、家系も調べてみたんですよ。そのときに、父方のひいおばあちゃんが「つる」という名前だと知ったのですが、映画『ツナグ』(2012年)の監督の話をいただいたときに、原作の登場人物に「つる」さんというおばあさんがいて。ご縁を感じ、またしても「呼ばれているのかな」と(笑)。

今は少子化も進み、時代とともに葬儀やお墓のあり方も変化していくんでしょうね。ただ、僕自身は親族の葬儀やお墓のことを通して、先祖からさまざまなことを教えられましたし、亡くなった家族とのつながりを強く感じるようになりました。

ーー最後に、読者の皆さんにお言葉をいただけますか?

平川さん:「重荷というのはそれを背負える力のある肩にかかる」。小説『風とともに去りぬ』の中の言葉です。『風とともに去りぬ』は、ドラマ『白夜行』の主人公・雪穂の愛読書。演出を担当するにあたって読み返した時に、この言葉が印象に残り、以来壁にぶつかった時に自分に言い聞かせています。

~EPISODE:さいごの晩餐~

「最後の食事」には何を食べたいですか?
「余命1カ月」を宣告されたとしたら、故郷の大分県に戻って、お墓参りをしたいです。ご先祖様に「これから行きますんで、よろしくお願いします」とあいさつをして、その後は自然の中で、とり天や琉球漬けなど九州のおいしいものをゆっくり味わいたいですね。うなぎもいいな。
祖母がうなぎ屋さんを営んでいたんです。関東では一度素焼きにしたうなぎを蒸しますが、九州では蒸さないんですよ。パリッとしていて、たれは濃い目。祖母のうなぎの、あの味がやはり好きです。

大分県の郷土料理・とり天のレシピ

画像提供元 : 大分都市広域圏
【材料】
鶏もも肉またはむね肉
調味料(酒、しょうゆ、おろし生姜、おろしにんにく、塩・こしょう)
衣(卵、小麦粉・片栗粉、水)

【作り方】
①鶏肉をひと口大にそぎ切りにする。調味料を揉み込み、10分程度置いて下味をつける。
②衣の材料を混ぜ合わせる。鶏肉に衣をつけ、180度の油でカラッと揚げる。

プロフィール

演出家/映画監督・平川雄一朗さん

【誕生日】1972年1月23日
【経歴】大分県大分市出身。日本工学院専門学校放送芸術科卒業。2000年、オフィスクレッシェンド入社。2000年、日本テレビドラマ『明日を抱きしめて』で初演出を手がけ、2006年に『白夜行』で初のチーフディレクターを務める。おもな作品にTBSドラマ『JIN-仁-』『天皇の料理番』『義母と娘のブルース』、映画『ROOKIES –卒業–』など。
【趣味】旅行
【そのほか】2021年は、TBS日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』が1月から放送、映画『耳をすませば』も公開予定。

Information

平川さんの監督作『約束のネバーランド』(2020年12月18日(金)公開)は、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載され、数々の賞も受賞した人気コミックの実写化。
孤児院「グレイス=フィールドハウス」を舞台に、「楽園だと信じていた孤児院」が「鬼に献上する食用児を育てる農園」であることに気づいたエマ、レイ、ノーマンによる脱獄劇を描く。主人公・エマ役を浜辺美波、レイ役を城桧吏、ノーマン役を板垣李光人が演じている。
(取材・文/泉 彩子  写真/刑部 友康)