「生きてるだけで最強!!」魚住りえさん【インタビュー後編】~日々摘花 第46回~

コラム
「生きてるだけで最強!!」魚住りえさん【インタビュー後編】~日々摘花 第46回~
フリーアナウンサーとしてテレビやラジオの番組MCやナレーションを中心に活躍する魚住りえさん。発行部数16万部を超えた『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』をはじめご著書も評判です。後編では2021年に他界されたお父様への思いや、40歳を前に立ち上げた「魚住式スピーチメソッド」についてなど、魚住さんの今とこれからについて伺いました。

実家のリビングで見せつけられた、医師としての父のすごみ

−−お父様が亡くなられてもうすぐ3年。今はお父様の存在をどのようにお感じになっていますか。

魚住さん:日々のふとした瞬間、とくに仕事をしている時に父から学んだことが自分の中に生きていることを感じ、「お父さんはすごかったな」と思います。

私が父のすごさを見せつけられた出来事が、40代の時にありました。当時の私は体調不良が半年ほど続き、いくつか有名な病院で診察を受けたものの、どの医師も5分ほど私の話を聞いて首をひねるばかり。「とりあえず、試してみる?」と処方された薬を飲んでも効きませんでした。そんな時に実家に帰る機会があり、父に相談しました。

すると、目の前でお茶を飲んでいた父がすっと医師の顔になり、私の話を目をつぶって聞きはじめたんです。時々「なるほどな」とつぶやきながらメモを取ったり、一言二言質問をしつつ、ひたすら話を聞き、2時間ほど経ったでしょうか。ようやく口を開き、「いろいろと複雑になっているが、ようわかった。結論はこうや。自分の身体を信じなさい」と言って治療法をアドバイスしてくれました。その通りにしたら、快方に向かったんです。
−−触らずして治すとは!

魚住さん:さすがに私も驚きました。父が患者さんから「神様」と慕われる医師であるとどこからか聞いたことがありましたが、それまではピンと来ていませんでした。でも、父が話を聞くだけで私の病気を治した時に、「神様」という言葉の意味はこれだったのか、と思いました。

父の医師としての腕は確かなものでしたが、医療技術だけでは患者さんにあそこまで慕われることはなかったでしょう。父が「聞く力」を持った人だったからこそ、「先生の言うことなら」と患者さんが父を信頼し、父の腕も生かされたのではないでしょうか。

診療室での父と対照的に、家での父はとにかくしゃべるしゃべる(笑)。人類の歴史や動物の生態などその時々で自分が興味を持っているテーマについて家族を聴衆に2時間講義を繰り広げるような人でした。

職業人としての父はすごかったと思います。「相手の話をしっかり受け止め、信頼関係を築くこと。すべての仕事の基本はそこにある」と実家のリビングで父の診療を受けたあの日を思い返しては肝に命じています。

人生の折り返し地点を目前に、39歳で起業

−−お父様のお話を伺っていると、魚住さんご自身のお仕事への情熱も感じます。魚住さんはずっとアナウンサーとして活躍されていますが、2012年には起業をして「魚住式スピーチメソッド」を設立されましたね。当時、魚住さんは39歳。40歳を前に起業された理由は?

魚住さん:人生100年時代と言われていますが、元気に動き回れるのは80歳くらいまでと想定すると、40歳は折り返し地点。自分の人生を見つめ直した時に、「社会に出てからずっとテレビの世界で仕事をしてきたけれど、もっと生身の、身近な人たちに役立つことがしたい」と思ったんです。

「私にできることは何だろう」といろいろ考えた末に、長年培ってきた音声表現や話し方や聞き方のノウハウを伝えていくことで皆さんのお役に立てたらと思い至り、立ち上げたのが「魚住式スピーチメソッド」でした。

−−以来、現在までにご著書を6冊出版され、「YouTube」でもノウハウを発信されています。魚住さんの指導は「お腹を引っ込めながら話すとツヤのある声に」「“えー”“あのー”などの口癖をやめるには文末ごとに口をパクッと閉じる」などちょっとしたヒントがいっぱいで、説明が具体的なので、実践してみたくなります。
魚住さん:ありがとうございます。実は「魚住式スピーチメソッド」を立ち上げるにあたり一番大切にしていたのは、今おっしゃってくださった「自分の経験や技術を一般の皆さんにいかにわかりやすく伝えるか」ということでした。プロなら「お腹から声を出して」といった漠然とした表現で理解できることも、一般の方には論理的にお伝えする必要があります。私だけでは何をどこまで、どう表現すれば皆さんに響くのかわからなかったので、友人たちに何度もレッスンを受けてもらって理論を確立していきました。

大変でしたし、今も「もっとわかりやすい伝え方はないかな」と試行錯誤中ですが、最近は講演や研修などで「本を読んで、滑舌トレーニングをやっています」「YouTubeを見ています」と声をかけてくださる方も多く、少しなりともお役に立てているのかなと感じてうれしいです。

最後は夫とふたりで眠りにつきたい

−−ご自身のエンディングについて何かイメージはありますか?

魚住さん:ずっと忙しく仕事をして目まぐるしい毎日を過ごしてきたので、穏やかな晩年に憧れがあります。父がよく「お前はよくそんな生き馬の目を抜く大都会で生きているな」と私に言って、「生き馬って」と笑っていたのですが、年齢を重ねるにつれ「本当にそうだな」と感じるようになりました。私、よく頑張っているなと(笑)。だから、最後くらいはのんびりと夫とお茶でもして、ふたり一緒に、健康なまま眠るように逝けたら理想的ですね。

−−最後に読者に言葉のプレゼントをお願いします。

魚住さん:「生きているだけで最強!!」という言葉を贈ります。生物学者の木村資生(きむらもとお)さん(故人)によると、この宇宙に1個の生命細胞が生まれる確率は宝くじが100万回当たるくらい稀有なことだそうです。おまけにちゃんと育ってここにいるなんて、奇跡ですよね。つまり、私たちは生きているだけで、ものすごい強運の持ち主。そのことを思い出させてくれるから、私はこの言葉が好きです。
魚住さん:私の人生は割と挫折だらけで、夢だったピアニストにはなれなかったし、運良くアナウンサーになったものの、テレビの華やかな世界になじめず、恩師につらつらと手紙を書いて相談した日もありました。起業してからも軌道に乗るまでには時間がかかり、通帳の残高を見つめたものです。

挫折の度に落ち込みましたが、ポジティブなことに意識を向けるようにしていたから、前に進めたのかもしれません。でも、そう簡単に気持ちを切り替えられないこともありますよね。そんな時はこの言葉を思い出していただけたら、と思います。

~EPISODE:癒しの隣に~

沈んだ気持ちを救ってくれた本・映画・音楽などがあれば教えてください
ぐるぐると同じことばかりを考えてしまわないよう、短時間でも好きなことに没頭し、悩んでいる物事から離れるようにしています。ここ数年はテニスにはまっているので、テニスの動画を見ることが多いですね。時間に余裕があれば、ラケットを抱えて練習に出かけてしまうこともあります。

テニス動画

『スターテニスアカデミー/スタテニ』
魚住さんお気に入りのYouTubeチャンネル『スターテニスアカデミー/スタテニ』。2020年6月に開設されたチャンネルで、2021年にテニス系YouTubeチャンネル初の登録者10万人を達成。日本テニス界を牽引してきた杉山愛さんや鈴木貴男さん、小野田倫久さんをコーチにバラエティに富んだレッスン番組を配信している。

プロフィール

フリーアナウンサー/魚住りえさん

【誕生日】1972年3月2日
【経歴】大阪府生まれ、広島県育ち。1995年、慶応義塾大学文学部を卒業し、日本テレビにアナウンサーとして入社。2004年にフリーに転身し、テレビ、ラジオを問わず幅広く活躍。また、約30年にわたるアナウンスメント技術を生かした「魚住式スピーチメソッド」を確立し、現在はボイス・スピーチデザイナーとしても注目されている。
(取材・文/泉 彩子  写真/刑部 友康  Hair&Makeup/畑野和代)