尊厳死の正しい意味と日本の現状~自分の最期を考える~

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尊厳死の正しい意味と日本の現状~自分の最期を考える~
尊厳死とは、終末期において自らの意思で延命処置をおこなわず、自然な死を迎えること。さまざまな国で尊厳死は浸透しつつありますが、日本では法律上認められていないのが現状です。本記事では尊厳死の意味や安楽死との違い、日本と海外における現状、そして尊厳死を考えるときに知っておきたい注意点などを紹介します。

「安楽死」と似ている「尊厳死」の意味と両者の違い

尊厳死と似た言葉として安楽死がありますが、両者の定義は異なります。まずは尊厳死の正しい意味と、安楽死との違いから紹介していきます。

尊厳死は自然に任せた先にある死のこと

終末期医療(ターミナルケア)において延命処置をおこなうだけの医療を、自らの意思であえて受けずに死を迎えることが尊厳死に該当します。自然に任せた先にある死のため「自然死」「平穏死」などと呼ばれることもあるようです。
なお、「尊厳死=何もせずに死を迎えること」ではありません。尊厳死を希望する場合は何もしないのではなく、早期から十分な緩和ケアを受けることとなります。尊厳死で重要なのは、本人の意思を尊重することとされています。

安楽死とは死期に対する概念に違いがある

2008年に日本学術会議が発表した「終末期医療のあり方について」を見る限り、尊厳死と安楽死の定義は、明確に定まっているとは言い難いのが実情のようです。言葉の響きも似ているため、両者は同一視されることも多いです。
とはいえ、尊厳死と安楽死では言葉の認識に違いがあります。安楽死には安らかに死ぬことの意味もありますが、よく知られているのは、がん患者など、病を患っている人の苦痛がどうしても除去できない場合に、投薬などでやむなく患者本人の死期を早めることです。
それに対し尊厳死は、患者の意思によって生命維持装置などを予めつけないなどにより死期の引き延ばしをやめること。つまり尊厳死は、結果的に死期を早めることであり、積極的な死とはあまり認識されていません。

日本と海外における尊厳死の現状と課題

尊厳死と安楽死の扱われ方や認められ方は、国によって異なります。ここでは、日本と海外における尊厳死の現状と今後の課題を紹介していきます。

日本で尊厳死は法整備されていない

日本では、尊厳死も安楽死も法律によって保護されていません。しかし、尊厳死法や安楽死法を望む声は多く、日本尊厳死協会などの団体によって立法化に向けた取り組みは続いています。
現状、法案の成立には至っていませんが、2007年には厚生労働省が国として初めての「終末期医療の決定プロセスに関する指針」を作成。回復する可能性のない患者本人、または家族が延命治療の中止を明確に希望した場合、医師がガイドラインに則って延命措置を中止することはあるようです。

世界には尊厳死や安楽死が認められている国がある

海外では、尊厳死や安楽死を認めている国があります。
患者の要請があれば医師による安楽死が認められることが、2002年にオランダ・ベルギー、2009年にルクセンブルクで、2016年にカナダ、2021年にスペインにおいて安楽死法として可決されています。このように、先進国では尊厳死や安楽死が認められやすい傾向にあるようです。

日本と海外では尊厳死の定義が異なる

海外と日本では尊厳死の定義が異なる点に注意が必要です。
日本における尊厳死は、延命措置を選択せずに自然に死を迎えること。一方で海外での尊厳死は、投薬などによる安楽死も含むこともあります。日本で言う尊厳死は、海外では「自然死」と呼ばれています。

日本は法律がないことで尊厳死がグレーゾーンになっている

日本には尊厳死に関する法律がないことから、延命措置などの中止は法的にグレーゾーンとなっているのが実態です。
医師を守るような法律もないため、医師が殺人罪などの罪で訴えられるリスクも少なからずあるのが現状のようです。実際、現在に至るまでに尊厳死や安楽死をめぐった裁判が何度か起きています。起訴されなくとも、尊厳死や安楽死について報道、そして議論されることで医療現場は委縮してしまうのです。

尊厳死の法整備を目指す動きが加速している

世界的に見て、尊厳死に関して後れを取っているといえなくもない日本。しかし2021年3月、尊厳死の法整備を推進する「終末期における本人意思尊重を考える議員連盟」が再始動するなど、ここにきて法整備を目指す動きが加速しています。
同連盟には自民党や立憲民主党など、超党派の国会議員が参加。終末期における、本人の意思を尊重した法整備を目指すと示されています。法律が制定されれば、尊厳死はより一般的なものになるでしょう。また、安楽死と混同されることがなくなることも考えられます。

尊厳死の意思表示ができるリビング・ウィル

尊厳死の意思表示として、一部の病院などで採用しているリビング・ウィル(終末期医療における事前指示書)があります。リビング・ウィルの内容と、事前に知っておきたいことを紹介します。

尊厳死に役立つリビング・ウィル

リビング・ウィルとは、意思の疎通ができなくなるような人生の終末期に備えて、「医療方針への自分の意向」を記しておく文書のこと。終末期医療における意思表示が可能で、自分の代わりに医療やケアについて判断・決定する代理人の指定もできます。尊厳死を希望する場合には、「延命治療を拒否する」ことや、その理由、意志決定の代理人の名前などを記します。
リビング・ウィルの作成方法は「本人が作成する」もしくは「公証人と宣言内容を話し合って公正証書として作成する」方法の2種類です。作成の際は、家族の署名が必要な場合もあります。また、家族だけでなく医師や介護士などの医療チームとも話し合いを繰り返すことが大切です。

リビング・ウィルで知っておきたいこと

リビング・ウィルは、作成したらそれで終わりではありません。作成後、1~2年が経過したら内容を見直して、現状に沿っていなければ改めて作成します。
また、人間は病状の変化などによって気持ちが変化するもの。本人の考え方が変われば、いつでもリビング・ウィルの破棄、撤回が可能です。ただし、公正証書にした場合は「以前のものを無効にする」という文言を含めて、新たに作成する必要があります。
リビング・ウィルの具体的な作成方法については、下記の記事で紹介しています。

尊厳死の注意点

尊厳死を希望してリビング・ウィルを用意していたとしても、叶えることが難しい場合もあります。ここでは、尊厳死に関する注意点を紹介します。

尊厳死の希望は叶わないことも

2022年現在の日本では患者本人が尊厳死を希望しても、叶わないこともあります。尊厳死に関する法律がないため、医師が延命治療の中断を躊躇したり、患者本人の意思疎通が不可能になった段階で家族により延命治療が希望されることが多いためです。

家族の同意が得られない、辛い気持ちにさせることもある

尊厳死を考えたとき、最初にするべきことは家族との話し合いです。尊厳死は家族の同意がないと成り立たない場合もあります。自分は尊厳死を望んでいたとしても、家族は延命治療を希望しているかもしれません。
また、相手の立場になって考えてみると、家族の延命治療中止に同意することは、精神的に辛いものがあるはずです。そのため、家族と話し合いの機会を設け、自分の気持ちを伝えてお互いに納得することが大切です。

尊厳死は最期を迎える選択肢のひとつ

延命治療をおこなわず、自然に任せて最期を迎える尊厳死。まだ日本では法的に整備はされていませんが、整備に向けた動きは活発になっています。尊厳死を望む場合は、家族や医療チームと話し合いをした上でリビング・ウィルの作成をすると、実現の可能性が高まるかもしれません。尊厳死は最期を迎える一つの選択肢として捉え、まずは家族と話し合いをすることから始めてはいかがでしょうか。