リビング・ウィルの必要性。自分らしく人生を締めくくるために

わたしのお葬式
リビング・ウィルの必要性。自分らしく人生を締めくくるために
自分の死後はどうしてほしいか、どんな葬儀にしてほしいかなど、生前に家族と話し合う機会が増えてきています。また、つらい延命治療についても本人の意思を尊重しようという考えが強まる傾向に。今、元気なうちに延命治療の有無や葬儀方法などの意思を表示する「リビング・ウィル」に注目が集まっています。

リビング・ウィルについて知っておきたいこと

リビング・ウィル(living will)は、「生前の遺言」と訳される英語の言葉です。患者本人が判断能力のある時点で終末期医療の希望や方針を意思表示すること、またその意思を示した文書をあらわします。ここでは、リビング・ウィルに興味を持っている人やこれから作成する人のために、知っておきたいことを解説します。

意味と内容

リビングウィルは、前述の通り、終末期医療で本人が意思表示できない場合に備えて、どのような治療を希望するかを示す文書です。

例えば、電気ショックや強心剤といった心肺蘇生、鼻から栄養を補給する経鼻チューブ、呼吸を助けるための酸素吸入や気管切開などの処置をどの程度まで行うか、食事や水分を口から摂取できなくなった時はどうするか、などです。

「自分がどうしたいか」という意思表示なので、回復の見込みがなければ、苦痛を取り除く処置のみを行い、その他は自然に任せるという希望も提示できます。

リビング・ウィルは、自分らしく、誇りを持って最期を迎えるためのもの、いわゆる「尊厳死」にもつながります。

リビング・ウィルの必要性

人工呼吸器や胃に穴を開けて直接栄養を送り込む胃ろうなどの延命措置は、一度開始したら中止するのは困難です。自力で行えないことを助けるための機械や処置ですから、外してしまうと回復は難しくなります。生命の維持を是とする医師の立場では中止の判断はしづらいものです。

患者本人が延命措置を望まなかったとしても、看病する家族が延命を望むかもしれません。また、延命措置をとらないという判断をする前に開始した治療を、医療機関は簡単にはやめられません。

リビング・ウィルはこうした医師や家族のジレンマを取り除き、決断を下す手助けになります。もちろん本人にとっても、誇りを持って最期を迎えられる、いわゆる「尊厳死」につながるのです。

遺言書やエンディングノートなどとの違いは?

現在ではすっかり定着しているエンディングノートを始め、リビング・ウィルに似た意味を持つ用語はいくつかあります。代表的なものを紹介しましょう。

・遺言書:自分が死んだ後の、財産の処分・贈与についての意思を明らかにした文書です。正式なものは法的効力が発生します。これに対し、リビング・ウィルは死の直前の希望や意思を明らかにするものです。法的な効力はありません。

・アドバンス・ディレクティブ:終末期医療に関する「事前指示書」です。リビング・ウィルに、代理人指示を加えたもので、欧米、特にアメリカでは法整備も進んでいます。自身の判断能力が失われた後にも効力を発揮します。残念ながら、日本では定着している文化とはまだまだ言いがたいです。

・エンディングノート:人生の終末期を迎えるにあたって、医療措置を含めた自分の希望や死ぬまでにやりたいこと、預貯金の管理、そして、代々伝わるレシピなど、家族に残したいことを記すものです。広義では、リビング・ウィルとも言えます。遺言とは異なり、法的効力はありません。しかし、自分に万一のことがあったら誰に知らせるか、各種手続きに必要なものはどこに保管してあるかなど、家族の負担を減らすために記録する人が増えています。

・蘇生処置拒否指示(DNR、DNAR、DNACPR):終末期医療において心停止・呼吸停止時に蘇生処置を行わないとするもの。リビング・ウィルの項目のひとつです。

エンディングノートは備忘録としては役立ちますが、リビング・ウィルとして提示するには十分とは言えません。

リビング・ウィルの作成方法

リビング・ウィルは、ただ単に「延命治療を希望しない」と意思表示するだけではありません。より詳細に、具体的に指示する必要があります。ここではどのようなことを書くべきか、作成方法について解説します。

作成するメリット

リビング・ウィルを作成するメリットは、第一に「自分が望む最期を迎えられる」ことです。自分の希望を示しておけば、意思表示ができない状態になっても望まない延命措置を受けずに済みます。

第二に「残される家族への思いやり」です。回復の見込みがないとわかっていても、人工呼吸器などの生命維持装置を外すという決断は、家族にはしづらいものです。そんな折にリビング・ウィルが提出されていれば、家族のストレスを軽減し、決断へ促すことができます。

日本ではまだ尊厳死に関する法制が確立していませんが、医療機関でも個人のリビング・ウィルを尊重するようになってきています。作成するにあたっては、自分と家族のために希望を明確に表し、共有することが大切です。

書く内容

リビング・ウィルに明記すべき内容を説明します。自分の「死」にまつわることなので、作成は、完全に自分の意思で行う必要があります。自分の意思であることを示すために署名と作成日の記入は必ず自筆にしてください。その他の項目は、パソコンで作成してもかまいません。日本尊厳死協会や一部の医療機関が独自に用意しているテンプレートを基に作成もできます。

記入する内容は、「現代医学において治療が困難であり、死期が迫っていると診断された時には、それを引き延ばすためだけの延命治療はしないこと」「回復の見込みがない意識障害に陥った場合は、生命維持のための措置は行わないこと」などです。

テンプレートなら、希望する内容のチェックボックスに印を入れるだけになっています。他にも伝えておきたいことがあれば、可能なかぎり具体的に書き加えます。

作成する時の注意点

リビング・ウィルの作成にあたっては、家族や担当の医師とよく話し合い、共有しておいてください。いざという時に実行するには、関係のある人すべてが了解・納得していることが重要です。

また、作成は本人が理性的な判断を下せる状態であり、完全に本人の意思で行われる必要があります。内容も1、2年ごとに見直し、適切なものに作り替えていくようにしてください。

リビング・ウィルに関するQ&A

初めて作成する時には、気になることや不安な点が出てくるかもしれません。ここではリビング・ウィルに関する疑問について解説します。

法的効力はない?

リビング・ウィルには、法的な効力はありません。しかし、遺言書と同様に、公正証書とすることで本人の意思に基づいて作成された強固な証拠となります。

延命措置をおこなうか、あるいは中止するかを決断する場合にも、家族が判断する根拠となるでしょう。近年では医療機関側も、本人のリビング・ウィルを尊重する率が高くなってきています。

一度作成して気が変わったら?

リビング・ウィルは本人の意思を示すものです。「気が変わった」「内容を変更したい」などの理由でいつでも変更・破棄できます。常に最新の状態にしておくために、定期的に内容を見直されることをおすすめします。

ただし、公正証書にした場合は、以前のものを無効にするという文言を含めて、新たに作成が必要になるので注意してください。

誰に渡せばいい?

準備したリビング・ウィルは、万一に備えて複数枚コピーを作り、あらかじめ家族や親しい友人に渡しておくか、保険証やお薬手帳と一緒にしておくなど、すぐわかる場所にしまっておきましょう。変更や破棄をする時は、忘れずに作り直して、新しいものを配るようにしてください。

自分らしい人生の最期を迎えるために

人間には自分らしく生きるだけでなく、「自分らしく最期を迎える」権利もあります。リビング・ウィルの作成が、自分の人生を振り返り、自分らしい締めくくりについて考えるきっかけになるかもしれません。