無宗教を正しく知る。考えておきたい葬儀とお墓の問題

終活
無宗教を正しく知る。考えておきたい葬儀とお墓の問題
無宗派とは神道や仏教、キリスト教など、特定の宗教を信仰していない人、もしくは状態のことです。無宗教でも葬儀は執りおこなえますが、埋葬に関する問題はいくつかあります。本記事では、日本における無宗教の実態をはじめ、本来の定義と現状、“死”に関する無宗教の扱い方などを解説します。

日本における無宗教の実態

日本には仏教系、キリスト教系、神道系、諸教(しょきょう)といった宗教が浸透しています。しかし、「自分は無宗教だ」と考えている人は意外と多いものです。まずは無宗教と考える日本人の多さと、その理由から紹介します。

「自分は無宗教」と考える人が多い

日本は「信仰している宗教はありますか?」という問いに対し、「ありません」や「無宗教です」などと答える人が多い傾向にあります。

2012年、アメリカの調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が世界の宗教動向に関する統計をとりました。その結果、「無宗教」の人口は世界で3番目に多いと発表されています。

そのうち、日本の中での内訳を見てみると、約7,200万人が無宗教とみなされたようです。2012年における日本の人口は1億2751万5千人であるため、こちらの統計では人口の5~6割が無宗教ということになります。

日常生活で友人などと宗教について語り合う機会は少ないかもしれませんが、無宗教と考えている人は意外と多い事が予想されます。

多い理由①日本特有の宗教概念によるもの

日本は信仰する宗教を自分の意思で選べる風潮があります。また、世界の中でも特殊で1つの宗教に縛られずに、いろいろな宗教行事に親しんでいます。それは次に挙げる年間行事や冠婚葬祭にも表れています。

<年間行事>

  • お正月:神道の神を祀っている神社にお参りに行く
  • 夏:仏教の行事であるお盆をおこなう
  • 冬:キリスト教の行事であるクリスマスを楽しむ

<冠婚葬祭>

  • 教会での挙式:キリスト教の考え方
  • 葬儀での読経やお線香など:仏教の考え方

このように、日本の生活には複数の宗教行事が絡んでいます。固定の宗教を強く意識する機会が少ないのも、無宗教と考える人が多い理由の1つです。

多い理由②現代の宗教観によるもの

時代の変化とともに人々の信仰に対する関心は薄れつつあり、宗教に無頓着な人も少なくありません。中には、親の葬儀で初めて実家が特定の仏教宗派に属する檀家(だんか)だったことを知る人がいます。その他、世界や日本の歴史を振り返る中で、宗教そのものに危うさを感じる人もいます。

先述のように、日本は信仰の自由が尊重されている国です。そこに、現代社会におけるさまざまな考え方や要因が加わることで、深い信仰心を持たない人が増加したのかもしれません。このような現代の宗教観も関係して、「自分は無宗教だ」と考える人が多いのだと推測できます。

無宗教の定義と現状

なぜ日本人の多くが無宗教だと考えているのか、その理由を紐解くカギとなる無宗教の本来の定義と現状を説明します。無宗教と似た言葉の意味も知り、自身の宗教観を見つめ直すきっかけにしてください。

本来の定義

日本にはさまざまな宗教宗派が浸透しています。その上で、無宗教の本来の定義は「神道や仏教など、特定の宗教を信仰していない人・状態のこと」です。日本では特定の宗教を意識することが少なく、無宗教だと考える人が多いことは何ら不思議ではありません。

ちなみに、無宗教と似たものとして「無神論(むしんろん)」という言葉もあります。これは漢字からも分かるように「神の存在を信じない」とする否定的な考え方であり、無宗教とは別物です。その他に、何らかの宗教を信仰しているものの、特定の宗派は信仰していない人のことを指す「無宗派」という考え方もあります。

現状

多くの日本人は先祖代々のお墓があり、それがどこかの宗教宗派に属していることがあります。そのため無宗教と考えている人も、家系的にはどこかの宗教に属していたり、日常生活の中で宗教行事に触れたりする機会があります。

葬儀は無宗教でできるか

人が亡くなった後におこなう葬儀にも「無宗教葬」という選択肢があります。しかし、先祖代々のお墓がある人は注意が必要です。続いて、無宗教葬をしたい人が考えるべきポイントを押さえていきます。

葬儀は無宗教葬という選択肢がある

無宗教葬は、特定の宗教宗派にこだわらない「自由葬」の1つです。無宗教であるが故に決められた儀式がないため、故人や遺族の意向を尊重できます。

無宗教葬で重視するポイントは、それらしいセレモニーではなく、葬儀に参列してくれた人それぞれが故人の生前の姿に思いを馳せられるようにすることです。そのために、思い出の品を飾ったり、参列者へ感謝の気持ちを伝える場を設けたりします。他にも、参列者との会食を充実させる、故人の好きだったものをお返し物にするなどが考えられます。

お墓や法要に関してはよく考える必要がある

先祖代々のお墓のある菩提寺があり、葬儀や法事の際はお寺に法要を依頼している人は、厳密に言えば無宗教ではなく仏教の信者とみなされます。自分では無宗教と思っていても、お寺の僧侶や親戚と葬儀や供養に関する認識のズレが生じるかもしれません。

そのような状況の人が無宗教葬をする際は、あらかじめ菩提寺への確認をし、場合によっては別のお墓や納骨場所を確保しておく必要があります。いかなる宗教も基本は信じるものを救うところなので、意向に反して無宗教葬を執りおこなうと、納骨を拒否される可能性も否めません。

こうした認識の違いは、法要やお墓関係にまつわるトラブルの原因になります。本当に無宗教葬で良いのか、先祖代々のお墓に入らなくて良いのか、自分の意思も大事ですが、菩提寺や親戚との関係性も含めてよく考えることが大切です。

無宗教にまつわるお墓問題の解決策

菩提寺があるものの、自身は無宗教を貫き通すのならば、お墓問題は避けて通れません。とはいえ、解決策はいろいろとあるので安心してください。ここでは新たなお墓を建てる方法と、墓じまいという選択肢を一例として紹介します。

民間・公営の宗教不問霊園にお墓を建てる

納骨するためのお墓を新たに建てる場合は、宗教不問の民間霊園、公営霊園ならば無宗教でも問題ありません。お墓でなくとも、納骨堂、樹木葬、海洋散骨などの埋葬法も宗教不問のところが多いです。

無宗教にこだわりすぎず、仏陀の教えが好きな人は「宗旨宗派不問」などの寺院霊園も選択肢に入ります。ただし、この場合も通常の墓地と同じように永代使用料・墓石代金・年間管理費などの費用はかかります。

墓じまいを検討する

無宗教だと考えていて、お墓を管理する後継者がいない人は、“墓じまい”という選択肢もあります。墓じまいとは、現在のお墓を解体・撤去して更地にし、その使用権を墓地の管理者に返還することです。

墓じまいをした後は、納められていたお骨を別の場所に移動させる必要があります。移動先としては、合祀墓(ごうしぼ)や納骨堂などが考えられます。合祀墓は、家族や親族のお骨が納められる一般的なお墓ではなく、他人同士のお骨を一緒に納め、合同で祀るお墓のこと。一方の納骨堂は、お骨を預けられる納骨場所です。

墓じまいを検討する際は、お墓に関係する親族に連絡をして話し合うことが大切です。

無宗教葬をする前・お墓を建てる前に知っておくべきこと

最期まで無宗教で通すと決めたら、どんな手を打つべきでしょうか。無宗教葬と公営霊園について、事前に知っておくと役立つ内容を紹介します。

無宗教葬は親族の理解を得る必要がある

葬儀のスタイルは、一般葬や家族葬など多様化しています。しかし、仏教形式の葬儀が多い日本では、無宗教葬を選ぶ人は少なく、世間に浸透しているスタイルとは言い難いのが実情です。

また、現代社会において宗教観が変化しているとはいえ、中にはお経をあげないことを非常識に思う親族もいるかもしれません。親族間のトラブルを避けるだけでなく、故人を気持ちよく送ってあげるためには、関係者の理解が必要です。不安な場合は、葬儀社のスタッフを味方につけて事前の根回しをし、参列者には当日「無宗教葬として執りおこなう」ことを説明してもらいます。

公営霊園は人気で倍率が高い

公営霊園は全体的に競争率が高い傾向にありますが、なかでも都立霊園が高い人気を誇っています。2020年度の抽選会の平均倍率は4.6倍で、人気区画においては驚異の25.2倍です。首都圏では大学入試や人気企業の就職倍率よりも高いことが想定されます。

都立霊園をはじめ、公営霊園は落選する可能性が高いことを念頭に置いて早めに動くことをおすすめします。

無宗教でも葬儀はおこなえるが、埋葬の問題は大きい

日本人は無宗教と考える人が多いですが、納骨場所などの問題について考えておく必要があります。本当に無宗教で通すのか、家系の宗教にならうのか、はたまた最期に眠る霊園などの宗教宗派にならうのか。いずれ選択は必要になるので、今から自身の宗教観や人生観と向き合ってみてはいかがでしょうか。