「心の老いを防ぐのは、物事を面白がる姿勢」坂東眞理子さん【インタビュー後編】~日々摘花 第3回~

コラム
「心の老いを防ぐのは、物事を面白がる姿勢」坂東眞理子さん【インタビュー後編】~日々摘花 第3回~
「日々摘花(ひびてきか)」は、様々な分野の第一線で活躍する方々に、大切な人との別れやその後の日々について、自らの体験に基づいたヒントを頂く特別インタビュー企画です。

本編は、第3回のゲスト、昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さんの後編です。
前編では、坂東さんと20年間同居し、支え続けてくれたお母様との別れと、別れを経てなお生き続けている故人への思いについてお話しいただきました。後編では、「年齢を重ねていくこと」や、今後の人生についてのお考えをうかがいます。

本や人との出会いで「引き出し」が増え、年を重ねても柔軟に

ーー「人生100年」と言われる時代ですが、坂東さんご自身は、「年齢を重ねていくこと」についてどのようにお感じになっていますか?

坂東さん: 若いころは何となく、人間は歳を取ると衰えていくというイメージが強かったんです。でも、70代になって思うのは、それは半分本当で、半分は間違いかもしれない。スタイルが崩れたり、肌つやがなくなるといった外見の衰えは抗いようがありませんが、心は歳ともに成長し、輝いていくように思います。

昔はわからなかったことが、わかるようになる。「年の功」というのは、図々しくなることではなくて、人の痛みがわかるようになり、人の言葉に共感できるようになることなんだなと感じています。若いころなら腹を立てていたようなことも、ある程度は受け入れられるようになったというのは、私も少しは成長しているのかもしれません。

ーー一般に「年を取ると、頑固になる」とも言われますが、坂東さんはむしろ年とともにお若くなっているように思います。ご著書を読ませていただくと、新しいことや、ご自分とは異なる意見を柔軟に受け止めていらっしゃるのが印象的です。

坂東さん:自分の価値観が受け入れられなくても、怒ったり、悲しんだりするのではなく、「へー、そうなんだ」って驚く。「世の中、変わったんだなあ」って。絶対に、私は面白がるんです(笑)。

自分とは異なる考えや意見に出会うというのは、「人って、いろいろなんだな」と知り、自分の「引き出し」を増やしていくための練習だと思うんですよね。私は昔からよく本、とくに小説を読んでいましたが、小説のいいところは、「こういう人生もあるんだ」「こういう考え方、受け止め方もあるんだ」とすべてを参考にできる。それと同じように、いろいろな人とおつきあいすることによって、自分の引き出しが多様になって、「こうでなくてはいけない」というような思い込みがなくなっていくのかなと思います。

自分の人生を受け入れることと、自分の死を受け入れることの関係性

ーーご自身の最期について、イメージされたことはありますか?

坂東さん:母の人生を思い浮かべて、私もあんな感じになるのかなと想像することはあります。母は92歳で亡くなりましたが、90歳近くなると、自分の人生を受け入れている雰囲気がありましたね。100パーセント燃焼して「思い残すことはない!」というのではなく、「まあ、いろいろあったけれど、私は私なりに頑張ったよね。ご苦労さま」と自分で自分を受け入れる感じでしょうか。

そうやって、自分の人生を受け入れると、自分の死も受け入れられるようになるんじゃないかなと思います。私くらいの歳だと、そういう気持ちになる時と、「まだまだ」とジタバタあがく時が交互にやってくるんですけど(笑)。

ありがたいことに、「幸福感」は若いころより上がっているように感じますね。かつては、もっと夫に理解してほしいとか、子育てが思うようにならないとか、職場で認められていないとか、不満の多い時期もありました。でも今は、「私もそれなりに一生懸命やってるかな」と感じています。

ーー私は40代後半ですが、なかなかそうは思えません。

坂東さん: 米国の心理学者エド・ディーナーの「感情」と「人生の満足度」に関する研究によると、人生において多忙な40代では「人生の満足度」が下がり、60代以降は上がっていくことがわかっているそうです。年を重ねると、「今まで生きてこられたのは、なんてありがたいことなんだ」と人生を肯定する人が増えてくるのかもしれませんね。なんだかんだ言って、死なないで生きてこられたんだもんね、と(笑)。

人に何かを与え続けた先輩たちのように、人生を全力で生きたい

ーー今後の人生について、どのようにお考えになっていますか?

坂東さん: 体が元気なうちは、何らかの形で社会の役に立てる活動をしたいなと思っています。「素敵だな」という生き方をされていた先輩たちを思い浮かべると、最後の最後まで人に何かを与えようとされていた姿が印象的でした。

例えば、愛媛県にお住まいだった松本さん。ガールスカウトの活動を通じて知り合ったのですが、80歳を超えても周りの人たちを応援し、お世話をし続けていました。ご自分では「ただのおせっかいおばさんなのよ」とおしゃっていましたが、松本さんのすごいのは、「押しつけがましさ」がなかったこと。自分のサポートが相手には必要ないと感じたら、さっと引くんです。晩年はひとり暮らしでしたが、お姉様を介護していました。人に頼り切らず、もたれかからない生き方をされていました。その姿も立派だったなと感じます。

大きな権力を持っていたり、大金持ちではなくても、自分ができることをやり、いろいろな人に与える。私自身もそうありたいですし、彼女たちのように人生を全力で生きたいと思います。

ーー最後に、読者の皆さんにお言葉をいただけますか?

坂東さん:道元禅師の「今を切(せち)に生きる」という言葉を贈ります。「今を一生懸命生きる」という意味です。まさに、最近流行りの「マインドフルネス」ですよね。「今を切(せち)に生きる」というのは、時代を問わず大切なことだなと思います。

〜EPISODE:追憶の旅路〜

人生でもう一度訪れたい場所はありますか?
瀬戸内寂聴さんが所縁の地を80歳で再訪し、それぞれの地をモチーフにした「場所」という私小説を書いたように、私にとっても、自分の人生と重なり合う場所はひとつではありません。あえて選ぶとしたら、30代でハーバード大学に留学し、9カ月暮らしたボストンでしょうか。現在勤務する昭和女子大学はボストンにキャンパスがあり、毎年のように出張で行くので、「追憶」という感じはしませんが(笑)。

坂東さんのボストンお気に入りのスポット

坂東さんが初めてボストンを訪れたのは、34歳のとき。東京に拠点を移した母に7歳の長女を託し、単身渡米。ハーバード大学の客員研究員として9カ月間暮らした。ボストンのお気に入りスポットはチャールズ川の岸。「向こう岸にハーバード大学のボートハウスやマサチューセッツ工科大学が見える場所があり、今でもそこを通ると初めてボストンを訪れた1980年9月の心細さと期待感を思い出します」と坂東さん。
Photo by Prateek Pisat on Unsplash
※写真はイメージです。

・プロフィール

昭和女子大学理事長/総長・坂東眞理子さん

【誕生日】8月17日
【経歴】富山県出身。東京大学卒業後、1969年に総務省入省。埼玉県副知事、ブリスベン総領事、男女共同参画局長などを歴任。2003年より昭和女子大学理事。16年より現職。330万部のベストセラー『女性の品格』(PHP研究所)をはじめ著書も多く、近著に『70歳のたしなみ』(小学館)など。
【趣味】読書、短歌。短歌は歌人・馬場あき子さんとの対談をきっかけに始めた。
【その他】健康のため、気候のいい時期には自宅から徒歩で通勤している。所要時間は1時間ほど。

・Information

2020年9月16日に発売された坂東さんの最新刊『老活のすすめ』(飛鳥新社)。「定年後の新しい人生をこれからどう生きるのか?」「高齢者は周囲とどう関わっていくべきか?」「必ずやってくる老いとどう向き合えばいいのか?」。人生100年時代のまさに後半戦を「より自分らしく、より身軽に、より楽しく」生きるための応援書。
(取材・文/泉 彩子  写真/鈴木 慶子)