「『終活』とは未来を考え、今を大事にすること」財前直見さん【インタビュー前編】~日々摘花 第5回~

コラム
「『終活』とは未来を考え、今を大事にすること」財前直見さん【インタビュー前編】~日々摘花 第5回~
人は必ず、大切な人との別れを経験します。その深い悲しみと、そこから生まれる優しさを胸に、“今日という日の花を摘む”ように、毎日を大切に生きてゆく……。「日々摘花(ひびてきか)」は、そんな自らの体験を、様々な分野の第一線で活躍する方々に共有していただく特別インタビュー企画です。

第5回のゲストは、財前直見さん。本編は、前・後編の2回に渡ってお送りする、前編です。
連続テレビ小説『スカーレット』『ごちそうさん』、映画『天と地と』など数々の作品に出演し、女優として活躍している財前さん。プライベートでは2007年から故郷・大分県に移住し、両親や長男とともに自然豊かな暮らしを楽しんでいます。勉強家で様々な資格を持ち、「終活ライフケアプランナー」資格も取得。2019年にはエンディングノートの機能を持つ『自分で作る ありがとうファイル』の出版もされています。前編では「終活」を意識したきっかけや、「終活」へのお考えについてうかがいました。

お世話になってきた大人たちの役に立ちたいと、「終活ライフケアプランナー」の資格を取得

ーー大分県でご家族と暮らし、仕事の時は東京に通う生活を始めて13年になるとか。以前と比べ、ご自身はどう変化しましたか?

財前さん:東京では仕事に集中し、大分では、主婦や母として子どもを中心とした生活。「オン」と「オフ」のメリハリをつけやすくなったと感じています。それから、生活が豊かになりました。大分の家は自然の多い環境で、食卓には父が趣味の畑仕事で作った季節の野菜が並びます。時々、息子の同級生のパパが釣ってきたお魚をおすそ分けしてくれたりもするんですよ。我が家のかぼすと物々交換(笑)。東京ではご近所づきあいが希薄になりがちだったので、肩書きや年齢とは関係なく助け合える、人と人のつながりが心地よくて。こういう世界がこれからもっと広がっていけばいいなと思っています。

ーー女優としてご活躍されながら、生活も楽しんでいらっしゃって素敵です。そのうえ、50代に入って6つも資格をお取りになったそうですね。そのうちのひとつに「終活ライフケアプランナー」※注)がありますが、「終活」について学ぼうと思われたのはどうしてだったのでしょう?

財前さん:2016年に50歳の節目を迎え、両親や、子どものころから知っている近所のおじさん、おばさんなどそれまでお世話になってきた大人の方々に対し、「何かお役に立ちたい、恩返ししたい」という気持ちが芽生えたのが大きな理由のひとつです。大分で暮らしながら、日々の会話でみんなの話を聞いていると、歳を重ねていくなか、それぞれ悩みや困りごとを抱えていたりするんですね。そうしたことに少しでも寄り添えたらと、心理学やカウンセリングなどの勉強をして資格を取ったりするうち、「終活」についても知識があると役立ちそうだなと考えて、「終活ライフケアプランナー()」の資格を取りました。

※ 終活ライフケアプランナーとは、一般財団法人 日本能力開発推進協会が主催する検定試験。終活に関する基礎知識、終末期ケアと死生観に関する基礎知識が求められる。

「終活」について最初に意識したのは、10数年前に義母が亡くなったときです。葬儀やお墓などの希望はきちんと伝えてくれていて助かったのですが、遺品整理の時に、何が大切で、残すべきものなのかわからず、悩みました。その人が大切にしてきたものは、大事にしたいじゃないですか。生きた証、代々受け継いできたものを次世代につなげていきたい。でも、急に亡くなったりして、周りに何が大切なものかがわからないと、残せないんですよね。それが残念で…。いざというときのために「終活」をして、家族に自分の意思や、大切なものを伝えておくって重要だなと思ったんです。

「備えあって、人生を楽しもう!」がモットー。「終活」も「備え」のひとつ

ーー2019年には、エンディングノートならぬ「ありがとうファイル」の作り方を紹介したご著書も出されています。ご自身がファイルを作ったきっかけは?

財前さん:私自身はありがたいことに今のところ健康で、「死」を意識していたわけではないのですが、「終活ライフケアプランナー」について学ぶにあたり、エンディングノートを書いてみようとしたんです。ところが、私が手にしたエンディングノートの項目は葬儀やお墓といった、自分が死んでしまった後の項目が中心で、それが大切なことだとわかっているものの書きにくくて、空欄が多くなってしまったんです。「じゃあ、自分でオリジナルを作ってみよう」と考えました。ルーズリーフに手書きで表を作り、自分にとって必要だなと思う項目を書き込んで、種類を少しずつ増やしていき、100円ショップのクリアファイルにまとめたものが、「ありがとうファイル」の原型です。

ーーファイルの内容を拝見すると、介護や終末期医療、葬儀といった「もしもの時」にかかわるシートのほかに、ライフプランや住所録、大切なものの置き場所といった今すぐ役立つ項目、預貯金や保険などのお金関連から、レシピ、自分にとって大切なものを書き込む「宝ものコレクション」といった家族に伝えておきたい内容まで! 日常に役立つ内容なので、すぐに書きたくなります。

財前さん:そうでしょう(笑)。家族の情報を一冊にまとめておけば、もし、急に自分に何かがあっても、これさえ見てもらえば大丈夫。「備えあって、人生を楽しもう!」が私のモットーなんです。

おすすめは、このファイルを防災グッズと一緒に鍵つきのキャリーケースに入れて、取り出しやすい場所に置いておくこと。「鍵つき」というのがポイントです。災害で避難所暮らしになったときも、大切な情報を守れます。あと、こうした情報は紙に文字で残しておくことが大事だと思います。今はデジタル化が進んで便利ですが、本人に何かがあったときに、パスワードがわからなくて家族が困るということがよくあるようです。

それに、字にも個性がありますよね。時代劇に出演するときに資料を見ていたりしても、文書から故人をしのぶことができます。例えば、井伊直虎なら『井伊直虎関口氏経連署状』という書状が唯一残っていて、当時身分の高い男性のみが用いた「花押(かおう=自署)」から、女性でありながら気丈に振る舞う姿が今を生きる私たちにも伝わってきます。そんな歴史に名を残すような人物ではなくても、「お母さんの字」を残しておくのもいいなと思うんですよね。

「終活」によって、生きている今のうちに大切にしたいことがはっきりしてきた

ーーご自身の「ありがとうファイル」で人生を振り返ってみて、どのようなことをお感じになりましたか?

財前さん:まず最初に、人生の最後までのライフプランを書いてみたのですが、そのときにすごく元気が湧いてきたんです。「終活」って何だか気が進まないというか、ネガティブなイメージもありますよね。でも、表に自分や両親、息子の名前と年齢を書き込み、「現在はこうで、これからはこんなことをしたい」と考えるうちに、「まだまだこんなこともできる」と楽しくなってきて。

それから、無駄使いをしなくなりました。人生の最後を意識することで、生きている今のうちに大切にしたいことと、それほどでもないことがはっきりしてきたからです。「終活」というのは、未来を考えることによって今を大事にすることなんだと感じています。

ーー財前さんのお話をうかがっていると、楽しく「終活」ができそうです。ただ、年齢を重ね、「死」をより意識するようになると、感じ方が違ってくるかもしれません。高齢の家族にも考えてもらいたいなと思いますが、何となく話を切り出しづらいです。

財前さん:そうですよね。私の場合は、まず自分が書いて、「こんなのがあると、便利だよ」と見せてから、「一緒に作らない?」と話しました。自分で書きづらい内容は、インタビュー形式で聞き取ったものを書いてあげるのもいいかもしれないですね。例えば、介護や終末期医療の希望について、父は自然に書いてたのですが、母はためらっていたので、「インタビューならどう?」と提案すると、話してくれました。書き残すと、「決定打」になる気がして抵抗があったようです。その点も、ファイルのいいところなんですよ。差し替えができますから、少し気楽に考えられます。

~EPISODE:さいごの晩餐~

「最後の食事」には何を食べたいですか?
近所の農家のお米で炊いたいつもの白ごはんとお味噌汁を両親、息子と食べたいですね。ごはんは少しやわらか目が好きで、お味噌汁は父が趣味の畑仕事で作った旬の野菜をたっぷり入れます。

だしいらず野菜たっぷり味噌汁のレシピ

材料:長ねぎ、キャベツ、にんじんなど好みの野菜、油揚げ、水、味噌

①野菜を食べやすく切る。
②油揚げは熱湯をかけて油抜きし、縦半分に切って短冊切りにする。
③鍋に水と野菜、油揚げを入れ、弱火で煮る。水からじっくり煮るのが、うま味を出すポイント。
④野菜に火が通ったら、弱火のまま味噌を入れる。

※レシピ、写真はイメージです。

プロフィール

女優・財前直見さん

【誕生日】1966年1月10日
【経歴】大分県出身・在住。1985年より女優として活動。シリアスからコメディまで幅広い役柄を演じている。おもな作品に『お水の花道』、連続テレビ小説『スカーレット』『ごちそうさん』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』、映画『天と地と』など。2021年1月から放送予定のNHKドラマ10『ドリームチーム』にも出演。
【そのほか】珠算2級、簿記2級、行動心理士、上級心理カウンセラー、メンタル心理カウンセラー、終活ライフケアプランナーなど数多くの資格を持つ。
Instagram naomi_zaizen_official
https://www.instagram.com/naomi_zaizen_official/

Information

著書『自分で作る ありがとうファイル』(光文社)では、財前さんが家族の一員として、また母としての思いと経験をもとに手作りした「ありがとうファイル」の作り方を公開している。書き替え・入れ替え自由「ありがとうファイル」はエンディングノートや家計簿などさまざまな機能を持つ、これまでにない人生ツール。スマートフォンやパソコンでダウンロードできる38項目のシート(PDFファイル)も用意されており、すぐにマイファイルを作成できる。
(取材・文/泉 彩子  写真/鈴木 慶子
 メイク/林智子 スタイリスト/crêpe 吉田由紀)