「『ああ、面白かった!』と言って逝きたい」財前直見さん【インタビュー後編】~日々摘花 第5回~

コラム
「『ああ、面白かった!』と言って逝きたい」財前直見さん【インタビュー後編】~日々摘花 第5回~
「日々摘花(ひびてきか)」は、様々な分野の第一線で活躍する方々に、大切な人との別れやその後の日々について、自らの体験に基づいたヒントをいただく特別インタビュー企画です。

本編は、第5回のゲスト、女優・財前直見さんの後編です。
女優として活躍する一方、「終活ライフケアプランナー」の資格を持ち、エンディングノートの機能を持つ『自分で作る ありがとうファイル』の出版もされている財前さん。前編では「終活」を意識したきっかけや、「終活」にまつわるお考えをお話いただきました。後編では同世代のご友人との別れや、ご自身のエンディングについてのお考えをうかがいます。

同世代の友人の他界をきっかけに、自らの最期について考えるようになった

ーーこれまで経験された「永遠の別れ」の中で、とりわけ印象に残っているのは?

財前さん:6年ほど前だったでしょうか。同世代の友人が癌で亡くなり、とてもショックでした。彼女もシングルマザーで、当時息子さんが中学1年生くらいだったと思います。周囲に気遣いのできる自立した女性でした。実家にも頼らず、ひとり必死で息子さんを育てていたのに、「天は味方してくれなかった」と悔しくて、悲しくて。まだ少年の息子さんを残して亡くなった彼女の気持ちを思うと、今でも胸が痛くなります。

ーー財前さんも息子さんがいらっしゃいますから、なおさらですね。

財前さん:そうなんです。「終活」を考えたのは、彼女との別れも心にありました。それまで自分の死について実感のあるものとして考えたことはありませんでしたが、40代で亡くなった彼女のように、私の人生もいきなり終わることがあるかもしれない。そのときに、息子が少しでも困らないように「ああしたほうがいいかな」「こうしたほうがいいかな」と考えるようになりました。

葬儀は、亡くなった人からの周囲への感謝の思いを伝えることができる最後の場

ーーご自身の最期については、何かイメージをお持ちですか?

財前さん:「ああ、面白かった!」と言って逝きたいんです。だから、毎日を思いっきりエンジョイして、「もう十分」と思えるくらいの人生を歩めたらいいなと思っています。

ーーそのために、この先、やってみたいことは?

財前さん:たくさんありますが、今やりたいのは、「古民家再生計画」。亡くなった祖父の家が大分の田舎にあって、たまに父が行って畑仕事をしたりしているのですが、今は誰も住んでいないんです。茅葺き屋根で囲炉裏があって、お風呂は五右衛門風呂。懐かしいその家を修理して、ピザ釜とかも作ったりして、家族みんなで楽しめたらと夢を膨らませています。

そういえば、祖父の家には蔵があって、家紋が刻まれていました。2017年に出演した『おんな城主 直虎』の井伊家と同じ丸に橘の家紋。橘はみかんの原種で、常緑で冬の寒さにも強いことから、奥ゆかしさや長寿の象徴とされていたようです。最近は冠婚葬祭でも紋付の着物をあまり着なくなり、自分の家の家紋を見たことがないという人も多いかもしれませんが、先祖代々受け継がれてきた文化ですから、残していきたいですよね。家紋を子どもに見せながら「◯◯家はこういう精神を大切にしてきたのよ」と話せるって素敵なことだなと思います。

ーー財前さんがお作りになった「ありがとうファイル」には、家族に伝えたい情報として、家紋や苗字の由来も書かれていますね。ところで、財前さんはご自身の葬儀については、どのようにお考えになっていますか?

財前さん:最後は身内だけで静かに見送ってもらうのがいいかなと考えています。一方で、葬儀には別れを悲しむとともに、亡くなった人から周囲へ感謝の思いを伝えるという側面もあると感じます。やはり私は、お世話になった方々にお礼ができないのはさみしい。だから、もし、病気になって、最期を迎えるまでに時間があるのなら、生前葬をやりたいです。皆さんに「ありがとうございました」ときちんと言って、悔いなく逝きたい。ただ、未来はわからないですよね。科学が発展して、10年後、20年後には最期の時を自分で選べていつまでも生きられたり、若返りもできる時代が来るかもしれない。

今に意識を向ければ、前向きに物事を考えられるし、老けない

ーーもし、そんな時代が来たら、どんな選択をされますか?

財前さん:もし若返りができるなら、子どもを産みたいです。赤ちゃんを抱いたり、おっぱいをあげられるあの幸せな時間をもう一度味わえるなら、そうしたいな。

ーーいつまでも生きられるというのは、魅力的な一方で、限りある命だからこそ、毎日を大切に生きられるという考えもありますね。

財前さん:確かに、それも一理あると思います。でも、やりたいことが山ほどある人にとっては天国ですよ。私みたいに(笑)。唯一、戦争という負の遺産をどう伝えるかは悩みますね。命の大事さはきちんと次世代に伝えないと、と思います。

ーー最後に、読者の皆さんにお言葉をいただけますか?

財前さん:「今を楽しもう」かな。「ああすればよかった」と後悔している時には、自分の意識が過去にいますよね。そうではなくて、今に意識を向ければ、前向きに物事を考えられるし、若くいられると思います。

~EPISODE:「余命1カ月」と言われたら?~

大事にしていたものを身近な人にあげたり、身の周りの整理をしているうちに忙しく過ぎてしまいそうです。出演作のDVDはどれも思い出のあるものですが、息子には「必要なければ、処分してね」と話すつもりです。ただ、NHK『ファミリーヒストリー』に出演した時の映像は残してもらいたいな。財前家の歴史を取材していただき、家系をさかのぼると紀貫之氏につながると知って驚きました。家族も親戚もそのことを知らなかったんです(笑)。

プロフィール

女優・財前直見さん

【誕生日】1966年1月10日
【経歴】大分県出身・在住。1985年より女優として活動。シリアスからコメディまで幅広い役柄を演じている。おもな作品に『お水の花道』、連続テレビ小説『スカーレット』『ごちそうさん』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』、映画『天と地と』など。2021年1月から放送予定のNHKドラマ10『ドリームチーム』にも出演。
【そのほか】珠算2級、簿記2級、行動心理士、上級心理カウンセラー、メンタル心理カウンセラー、終活ライフケアプランナーなど数多くの資格を持つ。
Instagram naomi_zaizen_official
https://www.instagram.com/naomi_zaizen_official/

Information

著書『自分で作る ありがとうファイル』(光文社)では、財前さんが家族の一員として、また母としての思いと経験をもとに手作りした「ありがとうファイル」の作り方を公開している。書き替え・入れ替え自由「ありがとうファイル」はエンディングノートや家計簿などさまざまな機能を持つ、これまでにない人生ツール。スマートフォンやパソコンでダウンロードできる38項目のシート(PDFファイル)も用意されており、すぐにマイファイルを作成できる。
(取材・文/泉 彩子  写真/鈴木 慶子
メイク/林智子 スタイリスト/crêpe 吉田由紀)