「急逝した両親と大往生した愛猫」声優 TARAKOさん【インタビュー前編】~日々摘花 第17回~

コラム
「急逝した両親と大往生した愛猫」声優 TARAKOさん【インタビュー前編】~日々摘花 第17回~
人は必ず、大切な人との別れを経験します。その深い悲しみと、そこから生まれる優しさを胸に、“今日という日の花を摘む”ように、毎日を大切に生きてゆく……。「日々摘花(ひびてきか)」は、そんな自らの体験を、様々な分野の第一線で活躍する方々に共有していただく特別インタビュー企画です。

第17回のゲストは、声優のTARAKOさん。本編は、前・後編の2回に渡ってお送りする、前編です。
声優のTARAKOさんが2024年3月4日に亡くなりました。63歳でした。謹んで哀悼の意を表しますとともに、心からお悔やみを申し上げます。
20代後半でアニメ『ちびまる子ちゃん』の主人公「まる子」役に抜擢されて約30年。声優・ナレーターとして活躍する一方、演劇集団「WAKUプロデュース」を主宰し、舞台の脚本・演出も数多く手がけているTARAKOさん。前編では、ご両親とのお別れや、愛猫「みかん」の看取りについてお話をうかがいました。

家族との関係性には、「めんどくさい」面ももちろんある

ーーこれまでの人生で、TARAKOさんにとって最も深く心に刻まれている「永遠の別れ」は?

TARAKOさん:どなたとの別れも寂しく、つらいけれど、やはり両親との別れは忘れられません。「生まれ変わっても、このふたりの子どもでありたい」と思うくらい、大好きな両親でした。うーんと、何と言ったらいいのかわからないのですが、家族ですから、「めんどくさい」面ももちろんあったんですよ。

ただ、両親は私が何かをやろうとする時に一度も反対をしませんでした。群馬の田舎で生まれ育った娘が「声優になるために、東京の専門学校に行きたい」と言い出したら、普通、親は「なんじゃ、それ」と思うはずです。でも、両親は「いいんじゃない?」と言ってくれました。

「家族というのは、好き嫌いの感情の別で語るものではない」とよく言われますが、家族にも相性はあると思うんです。だから、私はとても恵まれていると感じていますし、両親のことが大好きです。

−−それだけに、お別れはとても辛くお感じになったでしょうね。

TARAKOさん:両親ともに急な別れでした。父は2008年の母の誕生日に交通事故にあい、そのまま目を覚ますことなく翌月に亡くなりました。そして、10年後の母の誕生日に、父が母を天国に連れて行ってしまいました。今でこそ、「ふたりは本当に強い縁で結ばれていたんだな」と少し穏やかな気持ちで両親との別れを思い返しますが、父の時も母の時も、最初は呆然とするばかりでした。

とくに母との別れはあまりに突然でした。何の前触れもなかったんです。いつもと同じように母の誕生日を祝う電話をし、ひとしきり話して、「本当におめでとう。じゃあね」と電話を切って3時間後のこと。母と同居していた姉から「お母さんの心臓が止まった」と知らせを受けました。姉が外出先から帰宅した時に、母はすでに心肺停止の状態だったそうです。

姉の言葉が信じられず、思わず、「お姉ちゃん、ふざけないで」と言ったのを覚えています。病院に駆けつけ、目を閉じた母を前にしても、現実に起きていることと思えませんでした。体中から水分が抜けるくらい泣き、「何で?」と叫ぶ自分を別の自分がどこかで見ている感じ。あんな経験をすることは、二度とないと思います。

人間なら92歳。愛猫の最後に命のさまを教わった

−−お母様のお誕生日が、ご両親の「運命の日」になるとは……。

TARAKOさん:まさに「事実は小説より奇なり」です。びっくりして、悲しくて、「意味がわからない」ってこういうことなんだと初めて知りました。母とは「3時間前まで一緒におしゃべりをしていたのに」と狐につままれたような気持ちでしたし、最期を看取れなかった悔いも残りました。どうしようもないこととは言え、父の時もちょっとしたタイミングのすれ違いで息を引き取る瞬間に間に合わなかったので、「お父さん、お母さん、ごめんね」って。

だから、2年前、家族として10年以上一緒に暮らした猫の「みかん」の最期を見届けられたことは、本当にありがたかったと思っています。「みかん」はゴールデンレトリバーの「ももじ」(2010年逝去)の散歩の途中に出会って保護し、うちで育てることになりました。寂しがりやで甘えん坊でしたが、2008年に新たに4匹の猫を我が家に迎えてからは、「長女」として彼女なりに頑張ってくれました。亡くなる1カ月ほど前からは寝たきりに。テーブルの上に作ったベッドに横たわる彼女の横でごはんを食べながら、「1日でも長く生きてほしい」と毎日祈ったものです。

最期の日は芝居の稽古があったのですが、みかんの様子がいつもと違って胸騒ぎがして、仲間に話したら、「休んで、大丈夫だよ」と言ってくれました。おかげで、最後の最後までそばにいることができたんです。口からパカッと息を吐く瞬間まで、みかんが生き抜く姿を見届けて、「命ってこうやってなくなるんだ」と教わりました。

「みかん」は19歳まで生き、人間で言うと92歳の大往生でした。ずっと一緒にいて、温もりを感じ合っていた存在がいなくなるのは、離れて暮らしていた両親との別れとはまた別のつらさがありました。でも、最後までお世話ができたから、悔いはありませんでした。

一方で、何だかそれは私の自己満足に過ぎないのかな、という思いもあります。命がなくなるということ自体は変わらないわけですから。ただ、天国に旅立った存在と、自分が最後までしっかりと関われたと感じられるかどうかで、こんなにも気持ちが違うんだなって知りました。

家族っていろいろあるけれど、姉が「お姉ちゃん」で良かった

−−お母様が他界されて3年が経ち、ご両親への現在の思いは?

TARAKOさん:不思議と、両親のことで思い出すのはおかしなことばかり。父が酔っ払ってヘンな歌を歌っている光景とか、母がブツブツ文句を言っている姿とか。それでもやっぱり、思い出すと温かな気持ちになります。

父が亡くなった直後は、『ちびまる子ちゃん』の収録で「お父さん」というセリフを言うのが辛くて……。トイレに行って泣いたこともありました。でも、時間というのはすごいものですね。両親の位牌は私が預かり、お仏壇の代わりに小さなテーブルに並べているのですが、毎日、父の好きだったお酒などをお供えして、「ありがとう」と手を合わせているうちに、両親がいつもそばにいてくれているような感覚が生まれました。位牌も遺影もあるのに、亡くなった気がしないんです。ただ、携帯に残したままにしている母の留守電の声はまだ聞けません。3年経っても無理ですね。あと2年ぐらい経ったら、聞けるようになるかなと思っています。

喪失感は、両親以上にみかん姫との別れの方が大きく、もし両親と一緒に暮らしていたら、その辛さにとても耐えられなかったのではと思います。だから、母と同居をしていた姉の気持ちを思うと、姉への感謝で胸がいっぱいになります。母は晩年、認知症が進み、姉はずいぶんつらい思いもしたようです。でも、姉は私には一切その話をせず、母も私と話す時には最後まで「いつもの母」でした。

母の認知症が重度だったことを私が知ったのは、母が亡くなってしばらくしてから。母と3人でよく行った鬼怒川の温泉宿を姉とふたりで訪れた夜に、姉から打ち明けられました。私を気遣って黙っていた姉の気持ちがありがたくて、申し訳なくて、ただただ「知らなくて、ごめんね」と謝ることしかできませんでした。

家族っていろいろあるけれど、両親と同じく、姉のことも姉が「お姉ちゃん」で良かったって思っています。北関東で地震が起きたりすると、心配ですぐに電話しちゃう。仕事が立て込んで両親のお墓参りができない時も、姉が行ってくれて、とても助かっています。コロナ禍でお墓参りがしづらいのも気がかりでしたが、菩提寺の和尚さんが「ちゃんと供養するから、来なくて大丈夫」と姉に言ってくれたそうです。和尚さんもいい方で、父と母のお墓がちゃんと守られ、家族が変わらず繋がっていることをありがたいなと感じています。

~EPISODE:追憶の旅路~

人生でもう一度訪れたい場所はありますか?
2005年に両親と姉夫婦と一緒に旅行した神奈川県・真鶴町にもう一度行きたいです。愛犬の「ももじ」(ゴールデンレトリバー・♂ 2010年逝去)中心の旅で、ペット歓迎の宿に泊まり、ももじの気の向くままに町歩きを楽しみました。父が急逝したのは、この旅の3年後。旅行中の家族の様子をビデオに撮影していたのですが、見返していると、父はあまり映っていなくて、「なんでもっとお父さんを撮っておかなかったんだろう」と悔やまれました。

真鶴岬「三ツ石」の日の出の写真

真鶴町は神奈川県で2番目に小さな町。樹齢350年以上と言われるマツの群生や、シイ、クスなどの巨木が生い茂る豊かな森と海に囲まれた美しい半島で、静かな漁村の雰囲気を残す。岬の先端にある「三ツ石」からは相模湾を一望でき、初日の出スポットとしても人気だ。
※写真はイメージです。

プロフィール

声優/TARAKOさん

【誕生日】1960年12月17日
【経歴】群馬県太田市出身。81年アニメ『うる星やつら』の幼稚園児役で声優としてデビュー。90年より『ちびまる子ちゃん』の主人公・まる子役を務める。声優・ナレーターとして活躍するほか、演劇集団「WAKUプロデュース」を主宰し、舞台の脚本・演出、出演も数多く手がけている。
【ペット】保護猫4匹と暮らしている。名前は「うり(♀)」、「りんご(♂)」、「ぽんかん(♂)」、「めろん(♂)」。

Information

TARAKOさんが主宰する劇団「WAKUプロデュース」初のオーディオドラマCD『オーディオWAKU vol.1 〜imagine〜』(作・演出 TARAKO/2枚組 ブックレット付 税込4,800円)。今だからこそ届けたい想い。支え合いたい気持ち。出勤時や就寝前、入浴時など日常のちょっとした時間に楽しめるオムニバス形式の「耳で観る」ドラマが収録されている。また、2021年12月8日(水)〜12日(日)まで、赤坂RED/THEATERにて上演される公演WAKUプロデュースVol.25『hug』のチケットも発売中(配信あり)。詳細「WAKUプロデュース」オフィシャルサイト(https://ameblo.jp/waku-produce)。
(取材・文/泉 彩子  写真/刑部 友康)