「『まる子』の天使になった仲間たち」TARAKOさん【インタビュー後編】~日々摘花 第17回~

コラム
「『まる子』の天使になった仲間たち」TARAKOさん【インタビュー後編】~日々摘花 第17回~
「日々摘花(ひびてきか)」は、様々な分野の第一線で活躍する方々に、大切な人との別れやその後の日々について、自らの体験に基づいたヒントをいただく特別インタビュー企画です。

本編は、第17回のゲスト、TARAKOさんの後編です。
主人公役を務めるアニメ『ちびまる子ちゃん』は2022年1月で放送32周年。後編では、『ちびまる子ちゃん』を通して出会った仲間との絆や別れ、ご自身の死生観についてうかがいます。

母との別れの日。突然の呼び鈴に玄関を開けたら、「たまちゃん」がいた

−−『ちびまる子ちゃん』の主人公・まる子役も32周年を迎えますね。

TARAKOさん:毎週金曜日に都内のスタジオで収録をしていて、キャストやスタッフの皆さんの顔を見るとホッとします。体調が今ひとつの時も、現場に行って「まる子」をやっていると、スッと治ったりするんですよ。

よく「親が亡くなっても、仕事を休めなかった」という話も聞きますが、父の時も母の時も、『ちびまる子ちゃん』のスタッフの方々は一も二もなく「休んでください」と言ってくださり、お言葉に甘えました。

母が亡くなった時は、実家の玄関のチャイムが突然「ピンポーン」と鳴り、ドアを開けたら「たまちゃん」役の渡辺菜生子さんと「藤木」役の中友子さんがそこにいて、驚きました。『ちびまる子ちゃん』チームの方々はほかにも駆けつけてくれたのですが、みんな、本当に優しくて。とても励まされました。

30年以上も一緒に仕事をしていると、キャストの声優さんたちの中にも、天国に旅立たれた方がいます。お別れがあまりにさみしくて、両親の位牌と遺影を置いたテーブルにその方々の写真も飾り、「天使コーナー」と呼んでます。先に旅立った友人たちのことも、「天使になった」と思えば、いまも一緒にいるような気がして心が安らぎます。

「ももこちゃん」とのお別れは、悔やんでも悔やみきれない

−−『ちびまる子ちゃん』の原作者・さくらももこさんも2018年に他界されましたね。53歳の若さで乳がん、早すぎる別れとTARAKOさんの弔辞に多くのファンが涙しました。

TARAKOさん:ももこちゃんとのお別れは、悔やんでも悔やみきれません。 『ちびまる子ちゃん』が始まってしばらくはスタジオにいらっしゃることもあったし、お食事会などでお話しする機会もありました。だけど、だんだんとそうした機会も少なくなって。「いつでも会える」と思っているうちに月日が流れ、ご無沙汰をしてしまいました。

闘病をされていたことも知らず、ももこちゃんが亡くなったことを知ったのは、他界から数日経ってから。『ちびまる子ちゃん』のプロデューサーと監督が別の仕事の現場に会いにきて、「ちょっとお話をしたい」と言われ、なぜか嫌な予感がしながらお話をうかがったら、とても悲しいお知らせでした。うかがった瞬間は、頭が真っ白でしたね。ももこちゃんに何の恩返しもできないまま別れを迎えてしまった自分が不甲斐なくて。もう、後悔の塊のようになりました。

私にとって唯一の救いは、「ありがとうの会」でお会いした、ももこちゃんの息子さんの姿です。穏やかで優しい雰囲気をまとい、きちんと相手の目を見て話す息子さんで、愛されて育ったことがうかがえました。その姿からももこちゃんが息子さんと過ごしたかけがえのない時間が確かに感じられ、お会いしていなかった間も、ももこちゃんには幸せな時間が流れていたんだなとわかって、何だかホッとしたんです。

ももこちゃんは天使になってしまったけれど、アニメ『ちびまる子ちゃん』のスタッフの皆さんは、ももこちゃんが大切にしていたものを守り続けています。私にできることは、「まる子」に嘘のない命を吹き込み続けること。それだけはって思っています。

みんなの位牌に囲まれて、眠るように逝けたら最高

−−TARAKOさんご自身は今、「死」というものをどのように捉えていらっしゃいますか?

TARAKOさん:誰かがいなくなるのは、ものすごく怖いです。普段あまり会わない方と連絡を取り合う時には、「元気でね」という言葉を添えるのが癖になっているくらい、誰かと急にお別れしてしまうことに対し、恐怖心があります。父と母との別れがあまりに急だったからかもしれませんね。

ただ、不思議ですね。自分が死ぬことについては、気がついたら、怖くなくなっていました。今、こうやって息をして、ごはんを食べたり、みんなとおしゃべりをしたりといったことが全部なくなって、真っ暗な世界になってしまうと考えると、昔は「死」が怖くて仕方なかったんですけど、今は怖くないんです。天国に行けば、両親や、愛犬の「ももじ」、愛猫の「みかん」に再会できますし、天使になった友人たちにも会えますから。

−−「天使になる」って素敵な言葉ですね。ところで、ご自身の最後について、理想はありますか?

TARAKOさん:自分の「死」が怖くなくなってきたとはいえ、一緒に暮らしている4匹の猫を残して旅立つことは絶対にできません。悲しくて想像もしたくないけれど、4匹全員の旅立ちをちゃんと見送って、大好きなみんなの位牌に囲まれて、眠るように逝けたら、最高だなと思っています。

葬儀は友人や芝居の仲間など身内だけで、好きなお酒を持ち寄り、飲んだり、食べたりしながら、楽しく見送ってほしいです。お願いしたいのは、喪服を着ないこと。黒い服が大好きという人は別ですが、普段会う時に着ていたような服で弔ってもらいたいです。もうひとつ、劇団「WAKUプロデュース」で私が書いた脚本を1本、追悼公演で上演してもらえたら、うれしいな。そのための遺産は残します(笑)。

−−最後に、読者に贈る言葉をお願いします。

TARAKOさん:「大丈夫。大丈夫だよ」って言いたいです。少し前に友人が癌の手術を受けたのですが、その時に「大丈夫だから、大丈夫だから」と毎日自分の中で祈り、無事手術が成功しました。友人もそうなのですが、みんな、頑張り過ぎちゃうところがあると思うんですね。でも、無理はせず、自分を大切にしてほしいなと思います。

~EPISODE:さいごの晩餐~

「最後の食事」には何を食べたいですか?
以前はおでんのはんぺんが大好きで、さいごの晩餐は「はんぺん」に決めていたんですよ。ふわっふわのはんぺんが食べたいなあ、って。でも、ちょっと飽きてきちゃって(笑)。今は、「卵かけごはん」がいいなと思っています。先日も、新米で炊いた温かいご飯に、少し白身が残るくらいに溶いた卵をかけ、お醤油をたらりとさせて食べました。いつ食べてもおいしいですね、卵かけご飯って。故郷に戻ったような、ほっとした気持ちになります。

卵かけごはんの写真

ほかほかのご飯で食べる卵かけご飯は格別。せっかくなら、お米を美味しく炊きたい。炊飯器で美味しくご飯を炊く第一歩は、きちんと計量をすること。お米を軽量カップですくい上げたら、箸やスプーンのふちなどで平らにならす。また、お米は水を吸収しやすく、水に浮き出た汚れも吸い込んでしまう。お米を研ぐ時は、1回目に研いだ水に長く浸けないように気をつけたい。

プロフィール

声優/TARAKOさん

【誕生日】1960年12月17日
【経歴】群馬県太田市出身。81年アニメ『うる星やつら』の幼稚園児役で声優としてデビュー。90年より『ちびまる子ちゃん』の主人公・まる子役を務める。声優・ナレーターとして活躍するほか、演劇集団「WAKUプロデュース」を主宰し、舞台の脚本・演出、出演も数多く手がけている。
【ペット】保護猫4匹と暮らしている。名前は「うり(♀)」、「りんご(♂)」、「ぽんかん(♂)」、「めろん(♂)」。

Information

TARAKOさんが主宰する劇団「WAKUプロデュース」初のオーディオドラマCD『オーディオWAKU vol.1 〜imagine〜』(作・演出 TARAKO/2枚組 ブックレット付 税込4,800円)。今だからこそ届けたい想い。支え合いたい気持ち。出勤時や就寝前、入浴時など日常のちょっとした時間に楽しめるオムニバス形式の「耳で観る」ドラマが収録されている。また、2021年12月8日(水)〜12日(日)まで、赤坂RED/THEATERにて上演される公演WAKUプロデュースVol.25『hug』のチケットも発売中(配信あり)。詳細「WAKUプロデュース」オフィシャルサイト(https://ameblo.jp/waku-produce)。
(取材・文/泉 彩子  写真/刑部 友康)