「一度きりの人生。今を楽しく」厚切りジェイソンさん【インタビュー後編】~日々摘花 第19回~

コラム
「一度きりの人生。今を楽しく」厚切りジェイソンさん【インタビュー後編】~日々摘花 第19回~
「日々摘花(ひびてきか)」は、様々な分野の第一線で活躍する方々に、大切な人との別れやその後の日々について、自らの体験に基づいたヒントをいただく特別インタビュー企画です。

本編は、第19回のゲスト、厚切りジェイソンさんの後編です。
IT企業の役員としてビジネスでも活躍する「二刀流芸人」であり、最近では徹底した節約術や投資術も注目を浴びている厚切りジェイソンさん。後編では、「万が一の備え」に対する考え方や海を隔てて暮らすご両親のことをうかがいます。

娘たちに大金を残そうとは思わない

ーージェイソンさんは現在35歳。芸能界や、IT企業の役員として仕事をする一方で、投資もされて、ご自身や奥様、3人の娘さんが安心して一生暮らせるだけの資産を築かれたとか。万が一の備えも万全ですね。

ジェイソンさん:僕の投資法はシンプルで、キーワードは「長期」「分散」「積立」。節約をして余計な支出を減らし、月末に3カ月分の生活費を現金で残して、それ以外を米国株インデックス(市場の動きを示す指数)に連動する投資信託に毎月回し、待つだけです。投資を勉強している人ならわかると思いますが、かなり堅実な方法です。それでも、最初に就職をした20歳の時から投資をコツコツ続けるうちに、気づいたら不労所得だけで生活費をまかなえる状態になっていました。確かに、もし、今、僕が急に死んでしまったとしても、家族がいきなり暮らしに困ることはないと思います。住宅ローンの残高も団体信用生命保険の保険金で完済されますしね。

ただ、僕がお金を増やすのは「万が一のため」でも、「働かずに一生暮らすため」でもありません。「自由に人生を生きるため」です。仕事に依存しないで済むだけのお金があれば、何があっても家族を守れるという安心を手に入れられますし、自分が興味のあることを選んで仕事ができます。

僕は物欲がないので、「お金持ち」になりたいわけでもありません。やりたくない仕事を断れるくらいの「自由」がある生活が一番の幸せ。娘たちにも大金を残そうとは思わないです。最初から何の苦労もない生活をしていたら、自ら学ぶことがなくなってしまう。そんな人生を娘たちに生きてほしいとは思いません。自分で考えて、意見を論理的に言え、周りに惑わされず行動できる人になってほしいです。

両親の老後のことを「ロボット」的に考える

ーー自分で考え、行動できる人。ジェイソンさんのお姿そのものですね。「子どもは親の背中を見て育つ」と言われますが、ジェイソンさんのご両親について少し教えていただけますか?

ジェイソンさん:両親は厳格なクリスチャンで、どちらかというと「親の言うことは絶対」という環境で育ちましたが、一方的に何かを「やりなさい」と言われることはなく、意見は聞いてくれましたね。

父は個性が強く、とても論理的で、生き方にブレのない人。エンジニアでプログラミングをやっていて、もともとは会社に勤めていましたが、僕がまだ小学校に入る前にリストラで退職し、一人で会社を立ち上げて家で仕事をしていました。使わなくなったパソコンを僕にくれたりもしましたね。僕がエンジニアになったのは、父の環境の影響も大きかったと思います。

母はいつも甘いものを焼いていて、美味しいから食べるんですけど、食べても食べても焼くんですよ。だから、僕はどんどん太り、初めて日本に来た20歳の時には140キロありました(笑)。母は専業主婦ですが、いつも節約の工夫をしていて、「お父さんのお給料と同じくらい、節約で家計に貢献している」と話していたのを思い出します。

ーーご両親は現在もジェイソンさんの生まれ育った米国・ミシガン州で暮らしていらっしゃるんですか?

ジェイソンさん:姉はまだミシガン州に住んでいるのですが、両親は15年以上前にワシントン州に引っ越して、姉が住んでいる場所からは6時間かかります。ワシントン州には親戚もいないので、両親のどちらかが亡くなったら、残された方はどんなにか大変だろうと考えたりもします。

ーー親が高齢になってくると、健康や介護など気がかりなことも増えますね。

ジェイソンさん:心情的なことよりも、親が一人になった時に困るだろうから、どうサポートするかそろそろ計画をしておこうとは思っています。「理系」過ぎる考え方かもしれないですけど。

ーーいやいや、感情が先に立つと何も考えられなくなりがちですから、ジェイソンさんのように冷静な人が家族にいると心強いと思います。

ジェイソンさん:え、本当に!?  実質的な課題の解決にはつながると思いますが、僕はほぼロボットですよ(笑)。

妻が知らないのは口座のログイン情報だけ

ーー現在は「終活」という言葉も一般的になって、若い世代にも関心を持つ人が増え、「終活」への意向が最も高いのは30代という調査データもあります。また、同じ調査によると、「終活」を考えている30代が具体的にしておきたいことのトップは「財産整理」(楽天インサイト「終活に関する調査(2019年)」)。エンディングノートに資産情報を記録している人もいますが、ジェイソンさんはどうされていますか?

ジェイソンさん:僕は全く気にしていないです。なぜなら、大切なことは家族と常に話し合っているから。我が家のお金のことにしても、妻が知らないのは口座のログイン情報くらいです。娘たちは一番上がまだ小学生ですから、資産情報こそ知りませんが、お金に対する僕の考え方はいつも話しています。幼いなりに娘たちも理解をしているので、あらためて書き記す必要がないんです。

ただ、これはあくまでも僕のケース。日常的に家族と何でも話しあっている人もいれば、そうでない人もいるでしょう。どんな形にせよ、万が一のために伝えておきたい大切なことを元気なうちに整理し、家族と共有できる状態にしておくと、ストレスフリーですよね。最後の最後になってやらなければいけないことがたくさんあると、焦るでしょうから。万が一の時にやらなければいけないことはなるべく減らしておいた方が、最後の時を家族とゆっくり楽しめるのではと思います。

ーー最後に、読者の皆さんに言葉を贈っていただけますか?

ジェイソンさん:「今を楽しもう」です。人生にはいろいろなことがありますが、解決策があれば、それをやればいいし、なければ、自分ではどうしようもないことを心配しなくてもいい。それが僕の考えです。一度きりの人生。将来のことは心配し過ぎないで、今、一緒にいる人と楽しく過ごした方が、いい思い出がいっぱいできるんじゃないかな。

~EPISODE:追憶の旅路~

人生でもう一度訪れたい場所はありますか?
故郷の米国・ミシガン州チェルシーを訪ねてみたいです。とくに名物もない小さな町で、通った学校や、高校時代にアメリカンフットボールの試合で通ったフィールドなど日常の何でもない光景が心に残っています。実家はすでに別の場所にあり、チェルシーには20年近く行っていっていないので、あの光景が昔のままなのか、見てみたいですね。

ミシガン州でのアウトドアレジャー

厚切りジェイソンさんの出身地ミシガン州チェルシーは、自動車産業や音楽レーベル「モータウン」で有名なデトロイトから西へ約60キロの場所に位置する人口約5500人の都市。地元最大の企業は、米国でおなじみのケーキミックスブランド「JIFFY Mix(ジフィー・ミックス)」だ。ミシガン州で3番目に大きい公園・ウォータールー州立保養地から近く、住民はハイキングや乗馬、クロスカントリースキーなどアウトドアレジャーも気軽に楽しんでいる。
※写真はイメージです。

プロフィール

タレント/厚切りジェイソンさん
【誕生日】1986年4月9日
【経歴】アメリカ・ミシガン州生まれ。ミシガン州立大学を卒業後、イリノイ大学大学院修士課程修了。2011年にIT企業の日本法人支社長として来日。お笑い芸人としてデビューして4カ月でピン芸人の大会「R-1ぐらんぷり2015」決勝に進出。IT企業の役員も務める二刀流芸人。
【そのほか】映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』(2022年1月公開)、ドラマ『いいね! 光源氏くん』(NHK総合)に出演するなど俳優としても活動している。

Information

IT企業の役員でもあるジェイソンさんによる初のお金に関する著書『ジェイソン流 お金の増やし方』(ぴあ刊)。資産を増やすための考え方から、具体的な投資方法や節約術、ライフステージに応じたマネープランの立て方、娘たちに実践しているお金の教育まで、お金だけでなく人生を豊かにするためのヒントが満載。
(取材・文/泉 彩子  写真/鈴木 慶子)