エンバーミングとは?目的・手順・費用・メリット・デメリットを解説

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エンバーミングとは?目的・手順・費用・メリット・デメリットを解説

この記事はこんな方におすすめです

エンバーミングとは何かを知りたい
エンバーミングのメリット・デメリットを知りたい
エンバーミングとは、ご遺体を衛生的かつ長時間保存できる方法です。腐敗の防止やご遺体の修復など、実施する目的はいくつかありますが、どれも遺族の心のケアにつながります。この記事では、エンバーミングをおこなう目的や実施する主なシーン、メリット・デメリットについて解説します。

【基本】エンバーミングとは?目的・ほかの処置との違いなど

エンバーミングとは、日本語で『遺体衛生保全』といい、ご遺体を衛生的かつ長時間保存できる方法です。衛生的に安全なだけでなく、遺族の心のケアにもつながることから、海外ではよく取り入れられています。まずは、エンバーミングをおこなう目的や役割、海外の普及率、ほかの処置との違いを紹介します。

エンバーミングはご遺体を長期的に保存する方法

エンバーミングとは、血管の中の血液を出しその中に防腐剤の入った液を注入することにより、ご遺体を衛生的かつ長期的に保存できる方法です。「エンバーマー」と呼ばれる技術者によっておこなわれます。エンバーミングをおこなうことで、ご遺体が10日~2週間程度は安全に保存できます。

エンバーミングがもつ4つの役割

エンバーミングには以下の4つの役割があります。
  1. 消毒・殺菌
    清潔で安全な状態に保ち、遺族への感染症を予防します。

  2. 腐敗の防止
    死後すぐに始まる腐敗を防止するために薬剤を使います。ご遺体から発するニオイの軽減も可能です。

  3. 修復・化粧
    生前のきれいな状態に近づけるため、遺族の心のケアにつながります。

  4. 故人とのお別れの時間
    ご遺体を長期保存できるため、故人とゆっくりお別れの時間を過ごせます。葬儀・火葬まで日数があっても心配ありません。

エンバーミングは海外での普及率が高い

エンバーミングは、火葬が99%を占める日本ではあまり浸透していませんが、火葬より土葬が多い海外では比較的おこなわれている手法です。2022年現在、日本のエンバーミングの普及率※はおよそ3.6%です。
2022年:エンバーミング施行(53,041件)、死亡者数(約1,439,000人)。
「一般社団法人 日本遺体衛生保全協会」が発表している普及率※は次の通りです。
<世界における普及率>
アメリカ  90〜95%
カナダ 90〜95%
英国 70%
北欧 75%
ベルギー 4〜5%
フランス 30%
ヴェネズエラ 50%
西アフリカ 4〜5%
オーストラリア 25〜30%
ニュージーランド 25〜30%
シンガポール 70%

エンバーミングとほかの処置の違い

エンバーミングと混同しやすいものとして、湯灌(ゆかん)死化粧エンゼルケアがあります。
<湯灌>
湯灌とは、故人の体を湯水などを使って清潔にする儀式のことです。ご遺体を清めることが目的であり、防腐処理はおこなわれません。
<死化粧>
故人が安らかな表情になるよう化粧を施します。処置の範囲は業者によって異なり、清拭も含まれることがあります。
<エンゼルケア>
医療的処置や整髪、化粧などがおこなわれます。エンバーミングは体内に防腐処置がおこなわれますが、エンゼルケアは表面上のケアがメインです。

【目的】エンバーミングが必要となる主なシーン

エンバーミングがおこなわれる主なシーンは、「葬儀までに時間がかかる」「遺体の損傷が激しい」「空輸する」「感染症にかかっていた」場合などです。それぞれの理由を詳しく説明します。

葬儀までに時間がかかる

人が亡くなってから遺体を火葬するまでの日数は2~3日が一般的です。しかし、火葬場の予約が取れない場合や、年末年始に亡くなり葬儀まで時間がかかる場合などは、遺体をそのままにしておくと腐敗が進みます。
冬場は保冷剤やドライアイスを使えば大抵は大丈夫ですが、数年に一度の猛暑などの際はエンバーミングも検討する必要があります。

事故に遭った/ご遺体の損傷が激しい

故人が事故に遭って亡くなった場合は、ご遺体が損傷していることが多いです。ある程度の損傷であれば納棺師でも対応できますが、損傷が激しい場合はエンバーミングも検討します。
そのほか、病気によってやつれてしまった場合も、エンバーミングによって生前に近い姿に近づけられるとされています。また死後に硬直して入れられなかった故人が使用していた入れ歯を入れることもできます。

海外からご遺体を輸送する

海外旅行中や海外在住中に亡くなり、日本で葬儀を希望する場合は、ご遺体を空輸する必要があります。ご遺体の空輸の場合、「機内ではドライアイスが使えない」「振動により遺体からの体液流出の心配がある」といった理由でエンバーミングの処置が必要です。

日本国内から生身の体で海外へ移送する場合は、ほとんどの国でエンバーミングを行わないと受け入れてもらえません。

またグローバル化が進む中、家族・兄弟・親戚も海外居住や赴任、留学も増えてきているため、大切な方の葬儀に参列するために帰国に時間を要する場合などにも大変有効です。

故人が感染症に感染していた

故人が生前、感染症にかかっていた場合、ご遺体といえども接触すると感染するリスクがあります。そのため、エンバーミングでご遺体を消毒・殺菌し、感染リスクを抑えることも可能です。

近年では、新型コロナ感染症で亡くなった場合でもエンバーミングは可能です。

【手順】エンバーミングをおこなう流れ

エンバーミングを行うには、ご家族からのエンバーミング依頼書への同意が必要になります。

またエンバーミングを行う際に用意するものとして以下のものがあげられます。
* 死亡診断書(死体検案書)のコピー
* エンバーミング依頼書への署名
* 故人の生前の表情がわかるお写真等
* お着せしたい衣服
* 愛用の化粧品等(あれば)
エンバーミングがおこなわれる際の基本的な流れは、以下の通りです。
  1. 安置場所からエンバーミング施設へご遺体が搬送される。
  2. 処置がおこなわれるテーブルにご遺体が寝かせられる。
  3. ご遺体の状態を確認し、死後硬直していればマッサージが施される。
  4. 着衣をとって消毒液をスプレーし、全身に付着している微生物、病原菌の殺菌をおこなう。
  5. 鼻腔や口腔を洗浄し、安らかな顔に整える。
  6. ご遺体の一部を切開し、動脈からはエンバーミングの処置液を注入。静脈は切開して血液を出す。
  7. 残った体液を吸引し、切開部分を縫合後、全身を消毒する。
  8. 宗教宗派などに応じた衣服を着させて頭髪を整える。
  9. 遺族の希望に応じて死化粧をおこない納棺する。
納棺に関してはエンバーミング施設ではなく、自宅に搬送後、葬儀社が立ち会いのもとでおこなわれる場合もあります。

エンバーミングをおこなうメリット

エンバーミングはご遺体の修復や消毒だけではなく、遺族にとってもメリットがあります。主なものを4つ紹介します。

故人とのお別れの時間をゆっくり過ごせる

人が亡くなった後は、葬儀社との打ち合わせや関係各所への連絡、葬儀の準備などで慌ただしくなります。そのため、故人とのお別れの時間をしっかり設けられない、心に余裕をもてないことも少なくありません。
エンバーミングをおこなえば10日~2週間程度は安全な状態を保てるため、葬儀の日程を少しうしろにずらして、お別れの時間をゆっくりと設けられます。葬儀の準備期間が長くなることで、故人の好みや希望を反映する時間もできるでしょう。

遺族のグリーフケアにつながる

大切な家族が亡くなると、心に穴が空いたかのような喪失感に襲われます。お別れの時間がやってくるとき、ご遺体の損傷が激しいときなどは、特につらいものです。
エンバーミングにより故人とゆっくりお別れできること、生前の姿に近づけられることで、遺族の心も少し落ち着きます。故人との別れの悲しみをケアする「グリーフケア」につながります。
グリーフケアについては、こちらの記事を参考にしてください。

ご遺体に触れられる

エンバーミングではご遺体を殺菌・消毒します。感染症にかかっていた場合も、ご遺体に安全に触れられるため、遺族の悲しみも少しは和らぐかもしれません。

ドライアイスが不要/好きな洋服を着せられる

エンバーミングを施すと、ドライアイスでご遺体を冷やす必要がありません。凍結・霜などの心配や触れたときの冷やかさ・違和感などが解消されます。また故人が好きだった服を着させて見送れるのもメリットです。

エンバーミングのデメリット・注意点

エンバーミングにはメリットがある一方で、費用や実施スタイルに注意が必要です。エンバーミングをおこなうデメリットや注意点を解説します。

葬儀とは別に費用が発生する

エンバーミングの費用は葬儀と別に発生します。エンバーミングの相場は、15万円~25万円ほどです。ご遺体の状態や大きさ、修復範囲などによって費用は多少変動します。葬儀のほかにエンバーミングの費用を出せるか、家族と相談して決めましょう。

施術は専門施設のみ/遺族は処置に立ち会えない

流れの部分で触れたように、エンバーミングは専門の施設でおこなわれます。各都道府県にある施設は、「一般社団法人 日本遺体衛生保全協会」のHPで確認できます。なかには施設がない都道府県や、あっても自宅から遠い場合もあるため、移動の時間と費用がかかることを想定ししておきましょう。
またエンバーミング中には遺族は立ち会えないため、自分の見えないところでご遺体にメスを入れられることに抵抗を覚える人もいるかもしれません。

エンバーミングは遺族の心のケアにも役立つ

ご遺体に防腐処置を施すことで、安全な状態で長期保存を可能にするエンバーミング。生前に近い姿に近づける、ご遺体の損傷を修復できるなど、遺族の心のケアにもつながります。一方で、葬儀とは別に費用が発生し、体にメスを入れる必要があるというデメリットもあります。本当に必要かどうかは状況によりますので、家族との別れが少しでもつらくならないような選択をしてくださいね。

監修:1級葬祭ディレクター 瀬戸隆史 

家族葬のファミーユにて新入社員にお葬式のマナー、業界知識などを伝える葬祭基礎研修の講師を務める。
【保有資格】1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定)/サービス介助士/訪問介護員2級養成研修課程修了